大都会のシルヴァンドル−5
いったいどんな会話をすればいいのだろう、と思いながら若干不安に思っていた唯斗だったが、当日、二人で溜池山王駅に向かいながら自然に会話が始まると、意外とギャラハッドが話しやすい人物だったのだと知った。
そういうところはさすがランスロットの息子といった感じだが、それは別としても、とても落ち着いて丁寧な喋り方は、聞いていて心地よかった。
これはさぞパリでもモテていたことだろう。
それに、こうやって隣を歩いてみると分かるが、一つとはいえ年下なのに、唯斗より遥かに体格が良い。身長だって5センチほど高いし、厚みも違う。そういえば、ランスロットも190センチほどあった。
「…この東京の路線図は覚えた方がいいんでしょうか?」
「まさか。そんなん営業職くらいだろ。普通はスマホで調べる」
駅に着いて路線図を見たギャラハッドは一瞬愕然としたが、唯斗の言葉を聞いてあからさまにほっとしていた。パリも東京に似たようなめちゃくちゃな地下鉄の路線図になっており、ソウルやニューヨークのような整然としたものではないが、東京の路線図はどれだけ簡素化しても理解不能だ。
特に、この辺りは国会議事堂を中心に狭い範囲に8つもの駅があり、7つの地下鉄が通っている。溜池山王駅と国会議事堂前駅や永田町駅と赤坂見附駅など、事実上一つの駅となっているケースもある。
溜池山王駅側の入り口から地下に入って、長い通路を延々と歩き、国会議事堂前駅に向かう。
「案内をお願いしてなんですが、どちらに向かうんですか?」
「日比谷公園。電車の乗り方さえ分かれば、あとはどこでも行けるだろ。俺も都心はそんな詳しくないんだ。日比谷公園は、イメージ的にはリュクサンブール公園に近いかもしれない」
「なるほど…」
東京は意外と緑地が多いのだが、その中でも歴史ある公園が日比谷公園だ。広大な皇居の緑地に続く公園でもあるが、パリで同じようなポジションの場所だと、上野公園をテュイルリー庭園とすればリュクサンブール公園が日比谷公園のようなものだと思う。
本当はわざわざ地下鉄に乗らずとも歩いて行けるのだが、電車の乗り方をマスターすればどこにでも行けるようになるため、案内ということであればあえて電車に乗った方がいい。
そう考えて、千代田線に少しだけ乗って日比谷で降りる予定だった。
国会議事堂前駅から霞が関駅を過ぎればもう日比谷駅だ。すぐに下りて改札を抜ける。
「日本は鉄道にも改札があると聞きました」
「あぁ。日本はすべての鉄道、地下鉄に改札がある」
そうやって東京とパリとの違いを説明しながら駅を出ると、すぐに緑豊かな公園に出る。公園を取り囲む壁のように、高層ビルが林立する様子にギャラハッドは驚いたようにした。
「ニューヨークのようですね」
「ビルの形とかはニューヨークみたいに芸術性のかけらもない、つまらないモンばっかだけどな」
「Tofuに似ています」
「ふは、そうだな」
ベジタリアンやヴィーガンなどに人気の豆腐は、欧州の都市部では普通にスーパーに売られていることが多く、ドイツや英国は顕著だ。
そうやって会話を続けながら公園に向かおうと道を歩き出すと、スーツ姿の中年の男性がすれ違いざまに思い切り唯斗の肩にぶつかってきた。よろめいた唯斗を、ギャラハッドが慌てて支える。
「っ、大丈夫ですか」
「あぁ、いるんだよな、ああいうの」
まっすぐ歩くことしかできないのか、人を避けるということをせずぶつかりながら歩く中年から壮年の男性というのがなぜか一定数存在する。
すたすたと駅に向かって歩いて行くのを、ギャラハッドが追いかけようとする。
「ちょ、どうした」
「謝罪の一つもないなんて!いい年した大人が呆れます。もし怪我や病のある人だったら大ごとですよ!」
「ああいう手合いは何言っても無駄だ、つか英語も怪しそうだぞ」
「…、」
通じなければ何を言っても意味はない。ギャラハッドは思いとどまり、駅に向かおうとしたのをやめて踵を返す。
「悔しくはないんですか」
「悔しいけど、あんな奴にリソース割くのはもっと無駄だろ」
「…唯斗さんがそれでいいなら、いいですが」