長編番外編−バターケーキ


絶対魔獣戦線ハビロニアI
玉座でイチャつく賢王と主


ウルクで立香たちと合流した翌日、玉座の間に出勤してギルガメッシュの補佐をしていた唯斗だったが、朝から多くの神官が訪れる中、立香が訪ねてきた。


「唯斗、一瞬いい?」

「どうした?」

「はいこれ、シドゥリさんが作ってくれたバターケーキ」

「あぁ、昨日の夜めちゃくちゃ楽しそうにしてたやつか」


昨晩は、牛若丸たちを含めて歓迎会なるものが催されていたらしく、ジッグラトでギルガメッシュに付き合わされて残業していた唯斗は参加できなかった。

そのときにシドゥリから振舞われたバターケーキを、立香が取っておいてくれたらしい。贅沢なバターとミルク、小麦の使い方で作られたのであろうそれは、ふっくらとして美味しそうだ。


「シドゥリさんには、これから紹介してもらった仕事の職場まで案内してもらうことになってるから、ダッシュで届けに来た。昼までに食べてって」

「わざわざ届けに来てくれてありがとな」

「唯斗ともこの美味しさ共有したかったからさ。じゃ、行ってくるね」


さらりと言って立香は再び長い階段を下りて行った。本当に逞しいことだ。
それにしても、ああいうセリフをすらっと言えてしまうのが英雄たらしと呼ばれる所以だろう。

シドゥリが立香たちの面倒を見るため午前は開けており、唯斗がその代わりを務める。立香を見送り、ギルガメッシュの玉座の下に戻ると、ギルガメッシュはこちらを見降ろした。


「おい唯斗、貴様何を持っておる」

「シドゥリさんが作ってくれたっていうバターケーキです」

「昨晩何やら準備していたのはそれか。日持ちせぬものだ、疾く食べてしまえ」

「はい」


ちょうど神官の朝一の列が捌けたため、唯斗は少し行儀悪いが立ったまま一口食べてみる。添えられた木製のフォークで簡単に切れる柔らかさに驚きつつ口に含むと、芳醇なバターの香りとまろやかな舌触りで、非常に美味しかった。


「うっま…すげ、いいなこれ」

「……唯斗よ」


すると、玉座からギルガメッシュが声をかけてきた。さすがにこの場所で食べるのは行儀悪かったかと見上げると、手招きされる。

そのまま階段を上がって玉座のすぐ横まで行くと、黄金の防具のついた右手でこちらを指差した。


「献上を許す」

「…え、あんたこういうの食べん…食べるんですか王様」

「貴様の目の前でチョコレート菓子を食べていたのを忘れたか?」

「あぁ、そういえば。じゃあ失礼します」


唯斗は、バレンタインのときにチョコレート菓子を渡して食べさせたのを思い出す。そういえば都度チョコなど高級菓子を餌付けされていた。

フォークで一口大に切り分けて、それをギルガメッシュの方に差し出した。


「………」

「……あ、」


そこではたと気付く。そういえば、ギルガメッシュに餌付けされる際、いつも手づから食べさせられていたため、それが当然のようになっていた。刷り込まれた無意識である。
さすがにここは玉座、同じ空間には兵士たちや、次の報告をしようとやってきた神官たちの姿も見えた。


「すんませ、」


慌てて手を引っ込めようとしたとき、ギルガメッシュは防具をしていない左手で唯斗の腕を掴み止めさせた。

そして、そのままぱくりとケーキを口に頬張った。唯斗の腕を掴んだまま咀嚼し飲み込んでから、ようやく手を離す。
その際、こちらをニヤリと見上げ、その紅の瞳を楽し気に細めながら、ぺろりと唇を舐める。


「なかなか大胆になったではないか、唯斗よ」

「な…ッ!!」

「ふははははは!茹蛸のようになりおって!次は考えてから動くことだな」


顔に熱が集まるのを感じて、視界の端に唖然とする人々も見えて、唯斗は頭を抱えたくなる。


「シドゥリに美味であったと伝えておけ。何をしておる、報告なら疾くせよ!」


律儀に待ってくれていた神官たちに理不尽に怒鳴るギルガメッシュに、慌てて神官たちが前に進み出る。
唯斗は階段を下りて、石板でなるべく顔を隠すようにしながら、引き続き補佐の業務を行ったのだった。



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