長編番外編−二人きりの衆目


絶対魔獣戦線バビロニアI
アーサーと二人で過ごす


ウルクの北東40キロあまり、ティグリス川の右岸へと分岐する支流沿いにある都市ギルスを訪れたのは、レイシフトから2週間目に入ったときだった。

以前、この支流の氾濫対策について、唯斗は北壁以北でのティグリス川からの洪水線の形成と、ギルス北方での遊水地造成による複合的な対策を提案した。それはそのままギルガメッシュに採用され、唯斗はアーサーとともにギルスへと向かっている。

現在のイラクではテル・テローと呼ばれる遺跡である。
テルとは、アラビア語で遺丘を意味する言葉だ。歴史的に重要な場所には、人が繰り返し都市を築いては滅びを繰り返すため、その瓦礫や生活痕跡が堆積して丘となるのだ。これをテルといい、ギルスのことをテロー遺丘というわけである。

ギルスまでの街道は、唯斗がラクダに乗ってアーサーが手綱を引く形で進んでいる。このあたりではロバを使うことも多いのだが、ロバはラクダに比べるとやや気性が荒く、慣れていないと怪我をすることもあるため、ラクダを与えられている。
こういう形の移動は第六特異点を彷彿とさせた。というか、第六特異点のすぐ隣と言ってもいい距離である。


「なんかアーサーを見下ろすの新鮮だな」

「身長差が大きいからね」

「10センチくらいだろ」

「11センチだよ」

「……ランスロットやベディヴィエールより小さいくせに」

「なんとでも言うといいさ」


右側を歩くアーサーは、ラクダの高さもあって見下ろす形となっており、それを指摘するとなぜか身長差でマウントを取られた。
唯斗のサーヴァントの中ではエミヤが一番背が高く、アキレウスとディルムッド、アーラシュが同じくらいの高さで続き、ギルガメッシュとアーサー、ガウェインと続く。180センチに達していないのはサンソンとオジマンディアスだけだが、誤差のようなものでほぼ180に近い。
170ぴったりの唯斗はいつも彼らを見上げる立場だった。


「でもやっぱ身長近い方が親近感あるというか、安心するというか…立香といると目線が近いからいいなって思う」

「…困ったな、身長を縮めて現界し直すことができるかどうか……」

「何言ってんだ」


唯斗はアーサーのフードを上からぱさりと下ろす。金髪が太陽の下に輝き、次いで翡翠の瞳がこちらを見上げた。


「身長に関係なく、アーサーのそばが世界で一番安心する」

「…ふふ、そうか」

『オープンで通信繋がってるときにイチャつかないでくれます〜?』


そこに通信から声をかけてきたのは立香だった。今頃ウルク市内で重労働を課せられている。今日は市内で運び屋のようなことをしているらしい。


「お前こそ、この前せっかく休みだったのにマシュとデートしなかったんだろ」

『な…っ、あれはアナに頼まれて…!俺だって機会があれば…あ、』

「口は禍の元って言うんだぞ」

『マジでそれは唯斗にだけは言われたくないしブーメランだかんね』

「baldy」

『え、なんて』

「ハゲる呪いの遠隔術式をかけた」

『は?!噓でしょ!?』

「嘘だよ」

『唯斗〜!!!』


カルデアの方から笑い声が聞こえてきたあたりで、唯斗も立香も会話を切り上げた。
ちなみにbaldyはハゲという意味で、You baldy!で「このハゲ!」という意味になる。当の英語圏、特に米国では外見に基づく蔑称は極めて悪質とされるため、新聞やテレビでも見かけることはない表現だが、日常会話ではたまに聞かれる。

隣で聞いていたアーサーは呆れたようにしながらも、微笑ましそうにしていた。



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