Liberté−3


外観通り、内装も現代的で清潔な室内だったが、サンソン自身も綺麗好きなのか綺麗に整えられていた。1週間以上滞在しているはずだし、土曜日だからかドアノブには清掃を断る札をかけていたため掃除が入っていないにも関わらず、室内は整然としている。
さすがにベッドは寝起きのままシーツが乱れていて、清廉な雰囲気のあるサンソンのプライベートな部分に触れてしまったような気がして気まずかった。


「シャツは預かります、クリーニングに出しておくので。替えは…そうですね、僕のものでよければ貸せますよ、洗ってあります」

「…普通に俺の家に向かった方が良かったんじゃね?」

「あ……それは、そうですね。すみません、失念していたというか…焦っていたというか…」


意外と天然なところもあるのか、やってしまったという顔をするサンソンに思わず小さく笑いが漏れる。恐らく唯斗とほぼ同じ年齢か僅かにサンソンが年上という程度だろうが、なんでもできそうなイメージからすると少し意外だった。


「…笑うと年相応というか…途端にかわいらしいですね」

「ふは、お前それ、ここで言ったらなんかシャレになんないだろ」


一応ここはホテルだ。男二人、唯斗はまさに濡れたシャツを脱ごうとしていた。そこでそんな台詞を言われるとなんだかいかがわしい時間のようで、それをやはり何の気なしに言ってしまったらしいサンソンにおかしくなってしまった。サンソンも自分の失言に気付き、やや顔を赤くしながら「すみません」と謝った。


「いや、いいって。なんつか、同年代のヤツと話すの久しぶりだから新鮮だわ」

「金融会社となるとそうでしょうね。僕は大学病院なので比較的年齢が揃ってますが…ちなみにおいくつなんですか?」

「今年で25」

「え……あ、そうなんですか。僕は26なので1歳差ですね」


サンソンは決して口には出さなかったが、明らかに「思ったより年齢上だった」という顔ををした。フランスの血が入っているため、日本では年上に見られることばかりだったが、欧州ではやはり童顔のアジア系要素が出てきてしまう。
唯斗が察していることを理解しているのか、サンソンはすぐに言葉を付け足した。


「でもすごいですね、僕とほとんど変わらないのに、ルクセンブルクの金融会社に就職するなんて。欧州でもやはり特別な地位ですから。それに英語と日本語も喋れるということですよね、オランダは全国民がバイリンガルですが、トリリンガルはやはりすごいことです」


フォローのつもりだろうが、それはそれで本心だろう。サンソンからシャツを受け取って、脱いだシャツを渡す。サンソンはそれを籠に入れると、ちょうどやってきたスタッフにそれを渡した。
シッティングスペースに促され、唯斗は一人掛けのソファーに座る。サンソンは紅茶を淹れてくれていた。身長差は恐らく7センチ前後、余った袖を一回だけ折り、サンソンの言葉に自嘲気味に返す。


「まぁ、そうかもな。っつっても、フランスが嫌で日本国籍選んで日本に住んだのに、結局日本も嫌になってここに来たんだから、逃げた結果でしかない」


褒められることは多かったが、そのたびにそうではないと内心で否定してきた。なぜ今ここでサンソンにそれを言ったのかは、分からない。

サンソンは紅茶を蒸らすためにソーサーでカップに蓋をして、こちらを振り返る。


「逃げてきた?」

「あぁ。俺の父親の家系は金持ちだったんだけどさ。母親が俺を生んで亡くなってから、金だけ渡して放っておかれてて。小さい頃は父親とブルターニュの実家にいたけど、面倒見てくれてた親戚にアジア系だからってめちゃくちゃきつく当たられてたから、まぁ、普通にフランスって国ごと嫌いになったんだ」

「それは…つらいですね」

「まぁな。そんで、日本の法律では二重国籍はできないから、日本に戻って日本国籍にして一人で暮らしてたんだけど、日本は日本で、前時代的で人権意識も低いし、好きになれなくて。だからルクセンブルクに来たって感じ」



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