奇跡か否か−4


絆されないように、なんて思っていた唯斗だったが、その後僅か1か月で陥落した。
てっきり、気持ちだけ伝えて終わるだろうと思っていたが、シャルルは意外にもぐいぐいと来て、唯斗を落とそうと本気で迫ってきたのである。

教室や廊下、食堂など様々な場所で声をかけられ、そうして一緒にいるうちに、唯斗も徐々に踏ん切りをつけた形だ。

正直なところ、最初に再会しあの時間を一緒に過ごした時点で、唯斗はシャルルにだいぶ心を開いていた。かつて一瞬だけ出会っただけのシャルルが、ここまでして唯斗を求めてくれたという厳然たる事実に、それだけでぐらついていたのだ。

それもしょうがないことだと思う。ずっと孤独で、それにも慣れ切ってどうとも思わなくなっていた唯斗だったが、かつて初めて友達だと言ってくれたシャルルは特別だった。

これからもずっと一人で生きていくのだという閉塞感から、シャルルは唯斗を救い出してくれたのである。

ただ、問題は、それをどうやってシャルルに伝えればいいのか分からないということだった。

恐らく同じ気持ちになった。いわゆる恋人としての行為も、シャルルとなら大丈夫だと思える。それではこの気持ちをどうやって伝えるか。
そもそも告白という習慣がないフランスでは、恋人という関係は駆け引きというか、コミュニケーションの変質によってそれを確かめ合っていくことで成立する。
ただでさえ友人すらいない唯斗には、日本式だろうがフランス式だろうがとてもできない。

一方で、シャルルも唯斗を困らせないようにしようと、普段はあくまで友人として接するし、色恋沙汰っぽい雰囲気も出さない。ぐいぐい来るが、距離を詰めるだけで関係性を前に進めるための決定打にはしないようにしているようだった。唯斗への気遣いであり、唯斗がゆっくりと自分の感情を育てていけるようにということでもあるのだろう。

そして最も唯斗の足を竦ませるもの、それは、シャルルが異様にモテていることだった。


「すげ、あれ見ろよ、留学生のシャルル」

「あんだけ日本語喋れるならそりゃモテるよな」


学食で女子に囲まれているシャルルを遠巻きに見ている男子たちが噂する通り、シャルルはその男前さと気さくな性格、さりげない優しさなどモテる要素満載で、フランス人ということもあってそれはもう女子たちにモテていた。

シャルルは自分で、自分はストレートながら唯斗を好きになったと言っていた。つまり、女性に対して性的な感情を抱くわけであり、いつ目が覚めて唯斗を好きでなくなってしまうか分からないほどだった。

気持ちの整理こそついたが、やはり、怖い。本当に手を伸ばしていいのか、結果的に苦しむことになってしまわないか。
なんなら、こんなことをウジウジと考えていることを嫌がらないだろうか。

実際、シャルルは唯斗と一緒に過ごす時間が徐々に減っており、しょっちゅう飲み会に誘われていた。その中には、事実上の合コン状態のものもあるだろう。人付き合いの極めて良いシャルルは多くの人々に、男女問わず求められ、人の輪の中心にいる。いくら日本語が流暢だからって、これは言語だけではない、天性のカリスマ性というやつだ。

すでにそのことで、心に引っかき傷のような痛みを覚えていた唯斗は、これ以上重症化する前に、はっきりとさせてしまうことにした。

回りくどいことができない唯斗だが、それも向こうは織り込み済みのはず。それならば、遠慮なく、真っ向勝負をさせてもらう。



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