奇跡か否か−5


「相変わらずでけー家だな」

「めちゃくちゃ持て余してるけどな」


週末、唯斗はシャルルを家に招いていた。というより、行きたいと言われていたのを思い出して、来たければ来ていいという話をした形である。

目を輝かせて喜んで家にやってきたシャルルは、相変わらずまるで大型犬のように唯斗を慕ってくれてはいるようだ。
それに思わず安心してしまう自身の浅ましさに嫌になりつつ、本邸ではなく別邸のリビングにシャルルを通した。普段は洋風の一軒家である別邸におり、和風の本邸は巨大な倉庫のようになっていた。

普通のフローリングのリビングに置かれたソファーに座ったシャルルの、その右隣に唯斗も腰掛けて飲み物をローテーブルに置いた。
シャルルは少しだけ驚いたようにしつつも、嬉しそうに唯斗の肩を抱いてスマホを見せた。


「なぁなぁこれ見て、都庁の展望台行ったときのやつ。これ唯斗の家だよな」

「…うわ、多分そう。改めて見ると引くな…」


都庁の展望台から撮影したという写真には、唯斗の家の広大な敷地が小さく写っていた。シャルルは唯斗の家が見えると思って写真を撮ったのだろう。
展望台自体は友人たちと訪れたようで、他の写真には留学生仲間が映っていた。

その後、しばらく普通の世間話が続いた。他愛ない話も平然とできるようになった二人だが、唯斗は内心で、早く言え、今だ、と言い聞かせておきながら、なかなか切り出せずにいた。
とっとと言いたいことを言って尋ねたいことを尋ねるべきなのに、唯斗は言葉が出てこない。


「…?唯斗?どうかした?」

「え…」

「なんかずっと言いたいことあるっぽい感じ出してるからさ」


やはり、そういうところにシャルルは気付く。こんなときまで場を整えてもらうとは、と情けなくなりつつ、意を決して、唯斗はシャルルを見上げた。
僅かにしか離れていない高さの目線を合わせて口を開く。


「……その、最近、忙しそうだな。よく飲みに行ったり、遊びに行ったりしてるし…」


何を言っているんだ。自分で自分に突っ込みつつ、疑問符を浮かべるシャルルに何か言わなければと焦る。


「や、その…ほら、久しぶりにこうやってまとまった時間とったなって…あー、今のはその、なんていうか…あれだ、別に面倒くせぇ彼女みたいなこと言いたいんじゃなくて、えと、ちょ、ちょっとだけでいいんだ、別に、うん、ちょっとだけでいいから、俺とも一緒にいて欲しいっていうか…縛りたいわけじゃないんだけど、えーっと、っその、いろんな人に好かれるシャルルのそういうところも好きだから、全然それは構わないんだけど、ただ、少しでも一緒にいてくれたら、それだけで、一人でいる時間も寂しくないかな、っていうか、」


喋れば喋るほどから回るとはまさにこのことで、墓穴を掘りまくって井戸でも湧きそうだ。
自分ばかりが喋ってしまったと思って、恐る恐るシャルルを見上げてみると、シャルルはポカンとしていた。


「…シャルル?」

「っ、あ、悪い…えーと、唯斗…今、俺のこと好きって…」

「え…」


そういえば自分がつらつらと言ってしまったことを思い返すと、さらっと「好き」という直接的な言葉を放ってしまった気がする。しかも、「そういうところも」という他にもあることを匂わせる言い方だ。

というか、そもそもそんな言葉がなくても、今の発言は最初から最後まで感情駄々洩れだ。はっきり言葉にするよりよっぽど恥ずかしいことを言ってしまった。

その事実に気付いた途端、顔に熱が集中し、火照ってくるのを感じる。


「あ…あ、俺、おれ、いま…」

「っあー!!マジで!ほんっとマジで可愛いな唯斗は!」


突然、シャルルはそう大きな声で言うなり、唯斗を思い切り抱き締めてきた。左側に座るシャルルは、自分もソファーに倒れながら唯斗を引っ張ったため、唯斗はシャルルの胸板の上にごつりと顔を打ち付けてしまい、普通に痛みが走る。


「いって…!」

「あ、悪い。いやでもマジで今のはさすがに可愛すぎんだろ!まさかこんな形で言ってもらえると思ってなかったー!!」


シャルルを下敷きにするような形でソファーの上で二人して重なるように横になり、抱き締められた唯斗はシャルルの胸元からその顔を見上げる。
ひじ掛けとクッションに頭を乗せたシャルルは、至近距離で唯斗を見下ろして、そして蕩けるような笑みを浮かべた。


「嬉しい、唯斗。好きだ、大好き。ずっと一緒にいような」

「っ、でも、俺、シャルルの行動を制限したいわけじゃ…」

「そりゃみんなと遊ぶのも楽しいけど、唯斗と一緒にいられないのを紛らわしてただけだしな。唯斗の隣にいるのが一番好き。てか唯斗がいればいいしな。とっととフランス移って結婚して国籍取ろうぜ?」

「え、結婚?」


そんなところに話がいくと思わず驚く唯斗の頭を優しく撫でる。だが、その目は砂糖のような甘さだけでなく、すっと細まった目線にぞくりとするような鋭さも感じた。まるで猛禽類のような、狙われているようなそれだ。


「当たり前だろ?じゃなきゃ聞き込みまでして唯斗のこと探さねーっつの。はは、ぜってー逃がさねぇ」


あれこれ悩んでいたことは、すべて些末なことだったらしい。唯斗は今初めて、とんでもない男に自分が捕まったのだと理解した。



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