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「先輩の個性は反動とかあります?」
「大きな揺れを起こすとその分動けなくなるね。揺れの大きさによってインターバルは違う」
「なるほど…向こうがそれを知っている以上、警戒されているはずですよね。聞いた限りの個性だと、遠距離攻撃は考えられても真壁先輩の凝固させた土による投擲くらい?」
「その通りだね。俺の個性をグラウンドの中心で使って、そうだな、半径20メートルも壊せば、このグラウンドのどこにいてもトバリ君の移動圏内に2人の影が入るよね」
「いけます。インターバルどんくらいですか」
「30秒ってとこ」
「了解です。それまでに確保できなきゃ一回戻ります」
「OK」
簡単に作戦を組み立てられた。地形の単純さや個性の情報量が多いことももちろんだが、真堂との会話が必要最低限のもので済んだからだ。それはつまり、互いに必要な情報を察して先回りしているということ。
1年のクラスでは感じたことのないスムーズな感覚は、真堂が先輩で1年多く勉強しているのだという実感をもたせた。
「…にしても、トバリ君細くね?大丈夫?」
すると、真堂はトバリの体を見てそんなことを言い出した。確かに、トバリはヒーロー科にしてはかなり細い。肌も白いため、貧弱に見えなくもなかった。
対して真堂は上体をかなり晒すコスチュームのため、その肉体美が惜しげもなく晒されている。がっしりとした肩幅に厚い胸筋、綺麗に割れた腹筋と逞しいことが一目で分かる。
「…俺は個性の都合上、なるべく体積が小さい方がいいんです。小6のときなんて、離れた影の移動は50メートルまで行けたんですよ。成長したから30メートルまで狭まったんです」
「なるほどね、じゃあ筋肉量は調整してるのか。それにしても、なんか心配になるなぁ」
真堂はそう言ってトバリの腰をおもむろにがっしりと掴んだ。わりとくすぐりに弱いトバリは、突然の衝撃に「ひっ、!」と声を上げてしまう。
情けない声だったため羞恥が沸き上がるが、真堂はじっとこちらを見つめている。
「な、なんですか…」
「…その下なんも着てねぇの?」
「え、まあはい」
真堂は脈絡なく聞いてくると、突然トバリの前のファスナーを開けてきた。フードをしているため弛みがなく、開けられても内側の肌はがっつり見えるわけではないが、黒いツナギの下に自分の病的な白い肌が見えると、恥ずかしくて嫌になる。
「あの、ちょ、もうよくないですか…」
「んー…」
適当な返事を返されて、真堂のトバリの体をじっと見つめる視線は変わらない。トバリは押し返そうと真堂の逞しい体に手をついて離そうとするが、フィジカルで勝てるわけもなく、むしろ近づかれた。
「ちょ、ちょ、マジ何して…!」
「こらそこーー!!やっぱ仲いいのはいいけどセクハラはだめだぞ真堂!!」
そこへ鶴の一声、ジョークの呆れた声が響いてきて、真堂はハッとして離れた。もう始まるらしい。
「わり、ムラッときた」
「始めるぞ!!よーい…」
「…はっ!?」
真堂の爆弾発言に驚くも、ジョークのスタートという声に真堂は一気にグラウンド中心部へ駆け出した。空には真壁が放った土の塊がいくつも見えており、当たらないような位置で走りながら真堂の後を追う。
そして真堂が止まったところでトバリも止まる。距離はちゃんと半径20で開けてある。
「震伝動地!!!」
そこへ、真堂の技が炸裂した。地面が突如として砕け散り、岩の塊となってバラバラに散らばる。
それにより、岩の隙間に影が生まれた。更地では狭まる行動範囲が、これで一挙に広がった。
「30秒、いける!」
トバリは個性を発動し、地面の隙間に飛び込んだ。瞬間、あたりは暗闇に包まれた。まるで水中のようだが、どちらかといえば無重力、宇宙空間の方が違い感覚か。
上を見上げると、地面の亀裂に沿ってできら影が天窓のようになっており、日に当たっているところが黒い天井になっていた。影の中は、影の下を泳いでいるような動きをしており、地上の影が下から地上を覗く穴になっているのである。
それを見ていると、離れたところに先輩たちの影があった。上の影の穴は真堂を中心に半径50メートルに渡って広がり、その先は見えない。見えないところがトバリの限界だ。
影の中は速く動こうと思えば一瞬で動ける。狙いを済ませれば、すぐに真上に真壁と中瓶が見えた。2人の背後に伸びる影に近づくと、そこから手だけを出してテープを相次いで貼り付ける。
ミッションコンプリートだ。トバリはまた動いて、真堂の影から地上へ戻った。
「先輩!貼ってきました!」
「25秒、上出来だね」
どうやら真堂のインターバルが切れる直前に終えられたらしい。中瓶と真壁は、いつの間にか貼られたテープに叫んで驚いていた。
「…にしても、トバリはなんで俺んとこに戻って来たの?」
「?なんとなく」
「普通、ムラッときたなんて言う男んとこに戻ってくるかなぁ?危機感足りてないんじゃね?」
「危機感、ですか…なんか、安心しちゃってました、真堂先輩のとこから地上出てきて」
思った通りのことを素直に言うと、真堂は虚を突かれたような顔をする。それに首を傾げると、真堂ははぁー、と大きくため息をついた。
「あんま可愛いことばっか言ってると、本当に食っちまうぞ」
「…?え、どういうことですか」
「そこは分かんないんかーい」
変に純粋培養かよ、と真堂がまた呆れている向こうで、ジョークが「いいね!合格!てかほんと仲いいなお前ら!」と笑っていた。
そういえば、またさらっと名前を呼び捨てにされた。だんだんレベルが上がっているような感じだ。何となくそれが嬉しく感じてしまっていることに、恥ずかしいながら悪い気はしなかった。