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「ほら、そろそろこいつらも新しい学年に慣れてきたからさ。新鮮さをやりたくて」
「俺でなくても良かったじゃないですか…まあ、いいです。えと、みなさん、度々教室に失礼させていただいています、1年1組の木陰トバリです」
悪びれないジョークにこれ以上言ってもムダだと判断して、トバリは勝手に2組の面々に向き直る。挨拶はけじめだ。見知っていてもきちんとしなければならない。
「まだ1年のペーペーなので至らないことだらけです。でも俺なりの本気で皆さんと一緒の授業を受けます。だから、みなさんも容赦なく俺に本気でお願いします。どんなにも苦しくてもつらくても糧にしてやりたいと思っているので!よろしくお願いします!」
猫を被ったわけではない、これは本気だ。1年生として2年生の授業に混ざるのは容易なことではない。トバリにとっても2組の先輩たちにとっても。だからこそ、本気でぶつかってほしいと頼んだ。遠慮に気を回す必要はない、1年だからと優しくする必要もない。勝手についていくから、容赦なく当たってほしいのだ。
それは皆に伝わったようで、あちこちから「よろしく!」「頑張ろうな!」という声が上がる。もう一度深めの礼をすると、ジョークがパン、と手を叩く。
「うし!じゃあやるか!まずは木陰君の個性をきちんと把握したいから、さっそくだけど2対2の戦闘訓練やってみようか!」
いきなりの戦闘訓練に内心マジか、とは思うが、ここで無理だと思うことはない。ヒーローという職業への動機は金のためという不純なものでも、本気であることに変わりはないのだから。
「組み合わせはそうね、中瓶と真壁、木陰君と真堂で組んでもらおうかしら」
「「げっ!」」
「ぶはっ!まったく同じ反応!!」
ジョークは噴き出して楽しそうだが、こちらとしては目を見合わせてしまう。いきなりペアとは。
「だってほら、2人仲いいじゃん」
「「良くないです!!」」
「ぶはっ!!!被った!!!!」
もはやコントだ。クラスのメンバーからもクスクスと笑いが漏れる。その空気に、もう仕方がないかという気になった。それに、互いに意思の疎通がとりやすいのは確かだ、あくまで顔見知りだからだが。
「はー、おかし…じゃあ木陰・真堂チームはヒーロー役、中瓶・真壁チームは敵役ね!ヒーロー役はこのテープを相手に巻き付ければ勝ち、敵役は10分間逃げ切れば勝ち」
ジョークは何とか笑いを押さえると、テープをトバリと真堂に渡した。普通の粘着テープだ。
「使うのはこのグラウンドのこっち側半分、好きに使っていいよ。そんで、作戦タイムは2分。質問は?」
両チームとも質問は出ない。それに頷くと、ジョークはタイマーをスタートした。
離れた場所で2人になると、真堂は真面目な顔で軽く相手の説明をしてくれた。
「中瓶は体を折りたたんで亀みたいになれる。真壁は手でこすったりこねたりしたモンをめっちゃ固くできる。トバリ君の個性は?」
「雑…俺は影渡り、影の中に入って別の影に移動できます。影が繋がってりゃどこまででも、まったく離れた影なら30メートル以内です」
「ヒュウ、そりゃすごい。俺は知ってる?」
「はい、聞いてます」
「よし。じゃあ、グラウンドがこの状況だと俺の先手が必要かな?」
真堂が見渡すグラウンドは更地だ。向こう側半分はまだ地ならし中で、こちら半分は地ならしが終わったのか非常に平らな地面だ。広さはサッカーのコート3つ分くらいか。