心を開く
週一で2組と一緒に授業を受けるようになって1か月。そろそろ6月という時期のことだった。
毎週水曜日の昼に真堂たちと昼食をとってから授業に一緒に出るというのが習慣となって、この日も真堂の前の席で互いに煽ったり授業の話をしたりしながら過ごしていた。
「そういえばさ、トバリ休みの日何してんの?」
「休みですか?朝飯作って、洗濯して、掃除して、洗濯もの干して、昼飯作って…」
「あー分かった、分かったってママ」
「誰がママだ」
特に普段と変わらない。週末は洗濯物が多いので洗濯のウェイトが少し重いくらいか。
「先輩は何してんですか。なんかずっと筋トレしてそう…」
「心なしかバカにされてる気がするんだけど?」
「大丈夫です、それで合ってます」
「この野郎、今日覚えとけ。俺こう見えて釣りが趣味なんだよね。だから、時間作れたときは釣り行ってる」
趣味は釣りらしい。ちょっと意外だったので驚いた。一瞬おじさんくさいと思ったが、不思議と真堂には合っているようにも思えた。
「へぇ、意外です。どこでやってるんですか?」
「近くの山ん中の川かな。海はちょっと遠いし」
「川…あぁ、あの。でもあそこも大概遠くないですか?」
「俺バイク運転できるから」
今時は成人年齢引き下げにともなって様々な年齢制限が低い。普通免許各種も18歳未満での取得が可能になった。原付ではなく、普通のバイクに乗っているんだろう。
「あー、なんかバイクのイメージはつく。乗ってそうですよね」
「そうだ、トバリも時間あるなら一緒に行く?」
「へっ、」
すると、なんと真堂からお誘いを受けてしまった。趣味というからにはプライベートなものだろうに、後輩のトバリを連れていってくれるらしい。釣りに興味があるわけではないが、釣りをしている真堂を見てみたいというのはあった。
「…行ってみたい、です」
「おっ、じゃあ予定合わせて行こう。家は大丈夫?」
「あ、はい、泊りがけとかじゃないし」
そう長時間のものでもないだろうし、いいか。そう思ってトバリも行くことにした。今までは家より優先することなど何一つとしてなかったのだが、今回は、そう優先してもいないし、いいかなと思ったのだ。
***
待ち合わせとなっていた学校の最寄り駅の駐車場に行くと、すでに真堂が待っていた。今日は6月にしてはかなり暑い日で、完全に夏の空気感。トバリはTシャツに薄手のカーディガンとジーンズ、真堂は紺のシャツにグレーの七分パンツという出で立ちだった。
真堂はバイクの側でスマホをいじっていて、トバリに気づくと「よっ」と手を上げてこちらに向く。
「こんちは」
「今日あっついな!とりあえず行くか、ほれヘルメット」
「うお、これ2人乗りいいんですか?」
「それ用だから平気」
ヘルメットを渡されると、真堂も自身のヘルメットを被った。バイクは大きく、一応後ろに座るところがあった。
「本当はさ、彼女でも作って後ろ乗せたいなって思ってたわけよ。まぁ、ヒーロー科忙しすぎてそんな余裕なかったんだけどね」
「え、それ俺乗っていいんですか」
「…トバリならいいよ」
そう言うと真堂は先にバイクにまたがった。エンジン音が鳴ってバイクが震えだす。真堂に言われたことに面食らったものの、トバリは促されるまま後ろに乗った。
「ちなみに後ろに人乗せて走るの初なんだよね」
「えっ」
「もしかしたら怖いかもしんないから、俺に掴まっときな」
「ちょ、それ、うわっ、」
彼女用の2人乗りだから乗せたことない、なんて口説き文句のようでもあるのに、現実的にそれは後ろに人がいる状態は初めてということで。トバリが不安を口にする前にバイクは発進してがくりと体が傾いたため、慌ててトバリは真堂の腰に抱き付いた。ヘルメット越しに背中に密着することになるが、勢いよく進むバイクの速さが思った以上だったため、恥も何もなくそのままの姿勢に甘んじた。