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バイクに乗ること30分、山間の駐車場に着くと、ようやく徒歩のルートになった。初めてのバイクは最初こそ「あ、これ死んだ」と思ったが、慣れればまったく問題がなく、最後の方は結構楽しんでいた。
本人はあんなことを言っていたが、真堂はきっと運転がうまいのだろう。不慣れ故の恐怖以外を感じることはなかった。


「おお、やっぱ山の中は心なしか涼しいですね」

「これくらいの山だとほんと心なしかだけどね」


休みなのでバーベキューやキャンプなどでそれなりに賑わっており、人影も見かける。すぐ入ってこれる程度の山であることから、都市部ほどではない、というくらいの温度差に過ぎなかった。
それでも山に来るなんて久々のトバリはちょっとテンションが上がっている。


「もうセミ鳴いてるんですね、めっちゃ草の匂いする」

「そうだね、可愛い可愛い」

「え、セミがですか…?」

「違うんだよなぁ…」


真堂は呆れたように言うとすたすたと歩き出す。トバリはよくわからないままついていく。そういえば何も道具を持ってきていないがどうするのだろう、と思っていると、近くの釣り小屋に行ってレンタルしていた。さすがに趣味といっても高校生、自身の釣り具までもってやることではなかったらしい。


「こっち持って」

「あ、はい」


トバリは餌や小物が入ったビニール袋を真堂に渡され、真堂は釣り竿やバケツなどを持っている。明らかな重量差にもう少し持とうとしたが、やんわり真堂に断られてしまった。


「慣れてないと危ない道通るからおとなしくそれだけ持っとけ」

「…はい」


あまり食い下がるわけにも、思って引いたトバリだったが、真堂が山道を逸れて道ともいえない斜面を進みだすと理解する。言葉通り、慣れていないと危険な道だった。真堂はひょいひょいと進んでいくのだが、木の根や石などどこに足を置いていいのか迷う。たまにバランスを崩して転びかけることもあった。
さすがにヒーロー科、転ぶような真似はしなかったが、釣り竿など持っていたらそうはいかなかっただろう。素直に真堂に感謝だ。


「着いたよ」


そう思っていると、斜面の先に河原があった。バーベキューで賑わう川からは離れており、支流から何かなのだろう。人気はなく、しかし開けていて日当たりは良かった。


「すごい、穴場ってやつですね」

「そうそう。俺がひとりになりたいときとか、そういうときにここでずっと釣りしてんの。ちょっと特別な場所だね」

「特別……」


先ほどのバイクもそうだが、そういうところにトバリが踏み行っていいのだろうか。いいから真堂に連れてきてもらっているわけだが、どう反応すればいいのか分からない。だがひとつだけ言えることはあった。


「…真堂先輩のそういう場所見れて、なんか、嬉しいです」

「……そ?なら良かった」


ポンポン、と頭を撫でられると、真堂は川岸に道具を一式降ろし、慣れたように大き目の石の上に腰かけた。そこから2メートルほど離れたところにもちょうど良さそうな石があったのでトバリも座ると、日に当たっていた温かさがジーンズ越しにじんわりと伝わった。

そこからは、普通に真堂にやり方を教わってそれぞれの釣りの時間となる。餌となる何かの切り身(知らない方がいいと言われた)を針につけ、釣り竿を川に下ろす。海や大きな川と違うので、投げ入れるようなことはしなくていいのだという。
釣り糸が川の流れに揺られる感覚を竿を通して感じていると、時間がゆっくりと流れているような気がする。

爽やかな山の空気と風、降り注ぐ陽光、川のせせらぎ。五感すべてで自然を感じる静寂な時間は、とてもリラックスできる。

すると、トバリの竿がぐ、と引いた。これはそういうことだろうと意識が覚醒し、流れと抵抗に逆らって竿を引く。リールを巻きながら竿自体も引いていると、すぐに魚が姿を現した。
水を垂らしながら光を反射してキラキラと光る魚の重みを感じて陸に揚げる。


「先輩!釣れた!なんですかこれ!」

「お、ニジマスじゃん。良かったね」

「食えます?」

「おー、食える食える。塩焼きもいいけど佃煮もいいよ」


温くなる一方だったバケツにニジマスとやらを入れる。窮屈そうに泳いでいた。鰓の動きやひれの揺れは近くで見ることがない分新鮮だった。


「今日はキャッチアンドリリースだからね」

「分かってますよ!でもなんか急に可愛げを感じて…」

「いやいや、お前が可愛いわ」

「…?魚呼ばわりですか?」

「だから違うんだよなぁ…」


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