先輩の家


雨が止んだあと、洞窟を出た2人は服を着て駐車場へ戻った。トバリは何となく気恥ずかしかったが、真堂はけろりとしていて、滑りやすい斜面に気を付けるよう注意したり、乾いていない服をパタパタさせていたりと変わらない。
そんな態度にだんだんとトバリも普段の状態に戻り始め、そういう気づかいまでしてくれる先輩に改めて大人なんだな、と思っていた。


「にしても、ここまで濡れると良くないよなぁ…うん、俺ん家おいで」

「え、先輩の家ですか」


バイクのところまで来ると、座席を拭きながら真堂はそんな提案をしてきた。ここから待ち合わせした学校まで行くにも、トバリの家に行くにも少し時間がかかるため、服が濡れたままでバイクを走らせるのは良くないということだった。


「一回俺ん家で服貸してあげるから、そしたら送ってあげるよ」

「や、そんな、そこまでお世話になるわけには…」

「遠慮するのは仕方ないけど、もし風邪ひいて兄弟に移したらどうすんの?」

「……お世話になります」

「ま、最初から遠慮なんていらないけどな。いいよ、ほらヘルメット」


だんだんトバリの扱いが慣れてきた真堂である。トバリは返す言葉もなく、真堂の厚意に甘えることにした。ちょうど濡れた服に当たる風の冷たさを感じていたところでもあったため、バイクに乗って真堂に掴まると、行きのときよりも少し密着してみる。真堂が小さく笑った気がしたが、確認する前に走り出したため仕方なく追及は諦めた。



***



それから10分、トバリは真堂の家にやってきた。住宅街の普通の一軒家で、真堂の後に続いて玄関の扉をくぐる。


「お邪魔します」

「おー。誰もいないからそんな気にしなくていいよ。先シャワーしておいで」

「え、そんな、」

「一緒に入りたくなければ早く行ってこい」

「行ってきます」


やはり真堂のトバリに対する扱いがうまくなっていることが否めない。申し訳なく思いつつ、一緒に入るなどいたたたまれなさすぎるので先にシャワー室に案内される。一通り説明を受けてから服を脱ぐと、そういえば他人の家でこうして風呂場を使うなど初めてだなと気づく。
とどのつまり、トバリは友達がいなかった。高校に入って妹のユイの助言によって友人らしきものは作っているが、宿泊などしたことはなかったし、家族のこともあるので誘われても断って来た。

熱いお湯を浴びて温まると、真堂が置いてくれたシャツとジーンズに着替える。「小さい友達が泊まるときとかによく出す昔着てた服なんだよね」と余計なことを言われたものだ。そこまで小さくないし真堂だってそこまで大きくないだろうと思う。
ただ着てみると、身長差ではなく体格差によって少し服がぶかぶかに感じられた。そこはかとない悔しさを感じつつ脱衣所を出ると、真堂に呼ばれて2階に上がる。


「こっちこっち」

「はい、シャワーありがとうございました」

「いいよ」


呼ばれたのは真堂の自室らしい。ベッドに勉強机、本棚には参考書などのほかにマンガや雑誌などもあった。CMで見たことのあるゲームも棚の一番下にあって、CDラックには知らないアーティストのCDが並ぶ。
普通の男子高校生の部屋とはこういうものなのだろうな、と感じた。


「ベッドにでも座って待ってて」

「あ、はい」


真堂に示されてベッドの端に腰かける。真堂は一度部屋を出ていくと、3分ほどして戻って来た。
手にはマグカップを二つ、湯気が立っている。


「ほい、ホットミルク。レンチンしただけだけど。今脱水かけてるから、それ終わったら持って帰りな」

「わ、なんかほんと何から何までありがとうございます」


至れり尽くせりというか、あいつぐ優しさにトバリも恐縮しきりだ。真堂は苦笑するとベッドのトバリの隣に腰かけた。


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