2




「普段生意気なくせに、やっぱトバリって基本いい子だよね」

「いい子ってか…守るべき礼儀はあると思ってるだけです」

「それがいい子なんだよ、ほんと褒められても認めないな」


またわしゃわしゃと頭を撫でられる。なんだか1週間に5回はこうされている気がする。それがまったく嫌ではなくて、むしろ気分が良くて甘んじてしまうのが常だ。


「…にしても、家に誰もいないのに、男の部屋のベッドにおとなしく座るなんて、何されても文句言えないよ?」

「…?どういうことですか?」


それは普通に泊まりに来る友人にも言えるのでは?と思って首を傾げると、真堂はトバリが手に持つカップを机に置いてどかし、そっとトバリの両肩に手を置いて力を籠める。
されるがまま後ろに押されると、背中が柔らかいベッドに倒れる。トバリに乗り上げるようにして見下ろしてくる真堂を見上げる。


「…こういうこと、されても文句言えないよってこと」

「……え、よくわかんないです」

「ま、分かってたけどね…」


真堂は呆れたように言うと、トバリの両脇に手をついてマウントポジションを取った。すぐ近くに迫る端正な真堂の顔に、少し心臓が音を立てるが、ふとあることに気づいた。


「…なんか、すごい真堂先輩の匂いします。ベッドもそうだし、先輩からもそうだし。周り全部先輩って感じ」


ベッドと本人双方から真堂の甘い匂いがするのだ。先ほど洞窟で抱き込まれていたときのように、四方からこの匂いがしている状況だ。


「なんていうか、落ち着く、かも」


そうして周りの真堂の匂いが満ちているのがひどく安心できてそう言うと、どんな反応をするかと思って真堂の顔に目を向ける。すると真堂はすぐに倒れ込むようにしてトバリを強く抱きしめてきた。


「うわ、」

「はあああ…お前さ、ほんと…ほんとさ…」

「どうしました?」

「マジで、俺の鋼の理性に感謝しろよ…」


脱力したようにする真堂は、こちらに倒れ込んでいるものの、まったく体重はかけてきていない。ベッドについた肘ですべて支えているようで、ただ抱き締められている形だった。匂いが強くなって思わず目を閉じてその腕に自分の手を重ねた。


「んー…あざます…?」

「分かってねぇし、また襲われても仕方ないことしてるし…くそ、マジでおかし…はあ、」


お菓子?と思っていると、階下から脱水が終わったことを知らせる音が響く。ほぼ同時に、外から夕方5時を告げる市役所の放送が聞こえてきた。それにパッと意識が覚醒する。


「やばい!5時だ!ちょ、先輩帰って夕飯作らなきゃ!」

「………じゃあ、行くか」


何やら色々押し殺したような真堂の声音に、何かしたかと思って見ると、真堂は「仕方ないな」と笑ってまた頭を撫でた。気にするな、ということだろう。この許されている感じがむずむずとする。
真堂は起き上がると階下に行き、ビニール袋にトバリの服を入れてくれた。それを渡され、またバイクに乗るために真堂は鍵を持って玄関に向かう。

それについていくと、真堂は急に振り返った。


「…このまま、トバリが泊まってってくれたらいいのになって、ほんとは思うんだ。ごめんな、困らせるようなこと言って」

「…、俺もほんとはそうしてみたいです」

「……意味分かってないんだよなぁ」

「え?なんか言いました?」


小声で言ったことが聞き取れずに聞き返すが、真堂は首を振って靴を履いた。深くは聞かないが、トバリも靴を履くと真堂の服を軽く引っ張る。


「先輩、俺が先輩の家に泊まるのは難しいけど、先輩が俺ん家に泊まるなら大丈夫ですよ」

「え…」

「今日すごいお世話になったし。御礼したいから、先輩が良ければ来てください」

「トバリとご家族がいいなら、ぜひ。でもいいの?ほんとに」

「全然かまわないですよ。むしろ、嬉しいです」


誰かを呼んだことなどなかったし、真堂が来てくれるならなんだか嬉しいな、と思う。真堂は珍しく、本当に嬉しいと思ったのだろう、柔らかい笑顔で「じゃあ、ぜひ」と言ってくれた。


16/42
prev next
back
表紙に戻る