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トバリはチラシを真堂に見せて、小声で作戦会議を始めた。
「いいですか、今日の獲物はこの5つ。他にも買うものはありますけど、特売対象ではないので後回しです」
チラシにはマーカーで印をつけている。今日の狙いは豚肉と牛肉のバラとひき肉、しゃぶしゃぶ用のものもあれば欲しい。家にあるものと合わせて今日の夕飯であるすき焼きに使う。
肉の他の4つはいずれも野菜だ。春先の天候不良によって野菜が高騰しており、それこそが今回の大荒れをさらにひどいものにしていた。
キャベツ、ホウレンソウ、長ネギ、ナスが今回の獲物となっている。特にホウレンソウは今晩使う。
「さらに、ゲリラ特売もあります」
「ゲリラ?」
「普段の配置とは違うスペースで突発的に始まる特売です。これは基本的にいつでも安くあって欲しいと思う必需品であることが多いので、始まり次第近い方が行くことにします」
「…近い方、って、単独行動ってこと?」
「当たり前です。獲物は5点です、ミスは許されません」
各自で5点を狙いに行く。真堂は個性を使えないので2点、トバリは3点担当する。
「口頭で説明するので叩き込んでください。まず、肉は入口より前方5メートルを右、ついで左に曲がったところにあります。その後、肉売り場から8時の方向のどこかでホウレンソウです。ホウレンソウはいつも不定ですが、統計的にそのあたりになります」
「了解。ゲリラ特売の発生予測地点は?いくらゲリラといえど店内の状況は限られてるだろ」
「過去5回ともまったく違うところで法則性がありません。ただ、肉とホウレンソウは店の奥、他は手前なんで、どこで発生してもカバーできるはずです」
「これ以降は臨機応変、各自の判断にゆだねるってとこね」
「そうなります」
まるでいつものヒーロー科の演習授業のように作戦を立てると、店から店員が出てくる。人々の緊張がピークに達し、すべての目線がそちらに向かう。
「一足先に作戦行動に移ります。グッドラック」
「おう」
その隙にトバリは個性によって真堂の影に沈んだ。地面を見上げると多くの影がひしめいている。店内の影に入っていくと、予想通りの配置になっていた。個性を使っているところが客や監視カメラに見つかってはいけないため、行動は慎重にならざるを得ないが、負けるつもりは毛頭ない。
そして1分後、開店とともに開戦した。なだれ込む人々。真堂はほかの人をフィジカルで圧倒して進んでいく。さすがだ。
一方で、トバリはまずネギの群衆の先頭付近に狙いを定めた。影によって天井のカメラは見えており、その死角であり人々の視線の方向から外れた最適な場所に浮上する。店内に出ると、一気に耳に喧騒が飛び込んできた。
まずネギをゲット。そこからは歩いて移動した方が速いため足早に動き、次のキャベツも手に入れる。サイズが大きいため後回しになっているようだ。手薄なうちに移動すると人だかりになっているナスへ。
トバリはなんとかそれをかき分けてカートの前に躍り出る。特に高騰が激しいナスは人気だ。だがあえて最初に来なかった。
トバリは真ん中に残って人の手が届いていないナスをネギによって引き寄せ、それを横取りしようとする手をキャベツによってガードするという方法でこれもゲットした。すべてはトバリの策のうちにある。
戦利品を抱えて鮮魚売り場に出ると、反対側の肉の群衆から真堂が出てきた。その手にはしっかりと肉類とホウレンソウが抱えられていた。健闘を称えようとした、そのとき。
2人の間に、突然鮮魚売り場の従業員口からカートが出てきた。そこに並ぶのは、大量の卵だ。人々の目の色が変わる。
若干トバリからは距離があり、他の通路から人々が雪崩れてきたためトバリは届かない。
「先輩!」
トバリが大声で呼ぶと、心得たように真堂は人々を跳ねのけて進む。この前は体格差にむかついたが今は感謝しかない。
そしてその直後、バッと空中に高く右手が挙げられた。真堂の腕だ。その手には卵が3パック。割れないよう掲げながら、妨害にも負けずにこちらへ戻ってくる。
ようやく群衆を抜けた真堂は、ふらっとしながらトバリの前に戻って来た。
「と、とったよ」
「すごい!ありがとうございます!肉も全部あるし卵3パック…!」
さすが真堂だ。
そうして、2人はほかのものも買い揃えて家に向かうことにした。レジの先の机でビニールにまとめ、真堂のへたくそな配置を直してやってからそれらを持って出ようとすると、真堂は流れるように重い袋をすべて持ってしまった。
「え、ちょ、先輩、さすがにここまでしてもらったのに荷物くらい…」
「別に精神的に圧されただけで体力的にはなんも問題ないっての。たいして重くもないし、早くいこう」
真堂はまったく気にせず歩き出してしまう。申し訳なく思うが、同時にトバリはぽつりと呟く。
「先輩と結婚する人は幸せですね」
「……そう?」
聞こえていたらしい真堂は、しかしからかうこともせず、そのまま歩みを進めた。