自分の家
トバリと真堂は、買い物袋を抱えてトバリの家に到着した。夏至を過ぎたばかり、空はまだまだ明るい。
「ただいまー」
「お邪魔します」
玄関に入ると、ドタバタという音が階段から聞こえてくる。トバリも普通の一軒家で、2階に子供部屋がある。
「お兄ちゃんおかえ、り…」
やって来たのは案の定ユイだ。その目は、真堂を見た瞬間輝く。
「イケメンだ!!でかしたお兄ちゃん!!」
「あー…この頭緩そうなのが長女のユイで小6です」
「ユイです!お兄ちゃんがお世話になってます!もっとお世話してあげてください…げへへ…」
「ど、どうも、真堂揺です、よろしくね」
あの世渡りのプロ真堂が若干言葉に詰まるほどのユイの不気味な笑顔に、トバリはため息をつく。
そこへ、奥のリビングからまた足音がする。
「おかえり。こんにちは、真堂さん。俺は次男の夏夜です。こっちは末の妹で美紀」
次男で中2の夏夜、三女で年長の美紀である。美紀は人見知りなので夏夜の後ろに隠れて顔を出さない。夏夜はすでにトバリと同じくらいの身長で、バスケをしているためトバリより体格がいい。
ちょうどそこへ階段の上からもう2人降りてくる。改めて家族多いな、と自分で思うトバリだ。
「おかえりー!!焼肉まだぁー!?」
「まだぁー?」
「ただいま、ちょっと待ってろ、月人、サラ」
やって来たのは小4の三男・月人と小2の次女サラである。兄弟が勢ぞろいすると、真堂は「おお、」と感心する。
「6人並ぶと圧巻だね。真堂です、よろしく」
「夏夜、先輩の荷物持って台所。ユイ、先輩を洗面台に連れてって。他は解散」
「りょ!」
「略すな月人!サラと美紀が真似すんだろ!」
「りょー」
「こら美紀やめろ!」
本当に動物園だ。怒られた月人と美紀は「わー」と言って上の部屋に戻り、そのあとにサラも続く。上2人は言われた通りに動き、荷物を置いてきた夏夜も自室に戻っていった。案内を終えたユイもこちらにニンマリとしから上に上がる。声がするので、下の子どもたちに構うことで引き留めようとでもしているのだろう。
手を洗い終えた真堂と入れ違いに洗面台に入り手を洗うと、真堂はおかしそうに笑った。
「元気だね、皆」
「前言った通り動物園ですよほんと」
「そう?とにかくお兄ちゃん大好きって感じ伝わってきて可愛かったけど」
「やめてください…」
そういう照れくさいことを言わない欲しいと軽くその腕をどつき台所へ向かう。すき焼きを作るためだ。
作り始めると、手伝いを申し出た真堂が役に立たず戦力外通告をし、ちょうど降りてきた三男以下のちびっこたちの相手をさせた。台所はオープンキッチンというやつで、リビングの様子がよく見える。月人とサラを片腕つつぶら下げて持ち上げる真堂に、きゃっきゃっと喜んでいる。一番下の美紀は肩車されていた。
そしてリビングの入り口でだらしない顔をしながらその光景をスマホに収めるユイ。我が妹ながら本当にヤバいなこいつと思う。
それにしても、ちびっこたちと戯れる真堂はお兄さんというよりお父さん感が出ていて、改めて円満な家庭を築くんだろうな、と思って目を伏せた。
大量の具材を投入してなんとかすき焼きを作ると、兄弟たちを集合させてテーブルにつかせる。育ち盛りの兄弟たちだけでなく、最もよく食べる真堂もいるためいつになく大量だ。
人見知りを引っ込めた美紀を含め、下3人はとても真堂に懐いたようで、学校のことなど色々と話しながら楽しそうにしていた。それを見守っていると、ふと、月人が突然顔を暗くした。
「あのさ、お兄ちゃん」
「ん?」
「今日さ、社会科見学のさ、なんか、話で、この中で行ったことある場所あったら手上げてっていうので、おれ、手上げらんなかった」
「…、どういうこと?」
そして話を聞くところによると、どうやら社会科見学を前に名所やテーマパークなどが書かれた一覧の中で、行ったことある人は手を上げて、ということをやったらしい。一覧は10か所ほどあり、それだけあれば皆一度は手が上がったそうだ。だが、月人は一度も挙手できなかった。どこにも行ったことがなかったからだ。別にそれは目立つようなことでもなかったようだが、本人は改めて他の子たちと違うことに気づいて落ち込んでいるようだった。
それを聞いた上2人も顔を曇らせる。すぐに何ともないように振る舞い始めたが、ユイと夏夜も経験したことがあるのだろう。
そもそも考えて見れば、父が亡くなる前は次々と子供が生まれた関係でお金に余裕もなく、どこかに連れて行っていなかったし、父が亡くなってからはもちろんそんな余裕はなかった。トバリが気付ければなんとかなったが、この1年、トバリに兄弟たちをどこかに連れて行くという発想が出てくることはなかった。