愛妻弁当
真堂が泊まりに来た次の週、水曜日になった。
言われた通り弁当を持っていつも通りの教室に赴くと、真堂がいつも通り手を上げて呼ぶ。
「お、日曜ぶり」
「こんにちは」
「ちゃーんと持ってきたね」
真堂は心なしかワクワクとしたように言った。隣にはパンを食べる中瓶がいて、興味深そうにトバリが持ってきた二つの包みを見る。
「えー、ひょっとしてヨー君の分?」
「はい、そうです」
真堂に渡すと、さっそく真堂は包みを開いて弁当を開く。いつも同じようなものを見ているだろうに、「おお」と声を上げた。しかもスマホで写真まで撮っている。
はしゃぐ真堂を引いたように見てから、中瓶は不思議そうにした。
「どうしてヨー君の分まで作ることになったの?」
「実はですね…」
トバリはかいつまんでことの顛末を話した。遊園地に行ったことがない兄弟を、親に代わって2人で連れて行くその代償として弁当を献上するという内容だ。さすがに両親の事情までは話さなかった。
「ヨー君…そこまでして…」
「相手は超難関だからね、なりふり構ってらんないのさ」
どこか達観したように言っている内容はよく分からないが、トバリも箸を取り出して弁当を開く。真堂も食べ始める。
「うん、やっぱトバリの弁当は美味しいね」
「…どーも」
「この梅とシソで味付けした豚肉とかめっちゃ美味い!卵焼きのネギと白洲の和風味付けも最高!」
「…先輩、和風のが好きって言ってたから」
「それでいつもと変えてくれたんだ、ありがとね」
やはり、まだ直球で褒められるとどうすればいいのか分からなくなる。答えられずに箸を進めると、頭をわしゃわしゃと撫でられた。いたたまれないが、どうしても心地よいものは心地よく、目を閉じて甘受してしまった。
「ヨー君、着々と進めててこっすいんだぁ〜」
「うるさいぞ中瓶」
いつもよりゆっくりと食べているのは、真堂が大事に食べているからだろう。見ていれば分かる。たまにおかずを分けることはあっても、こうしてきちんと作ったことはなかったため、こうも喜ばれてしまうと気恥ずかしい。
だがそれ以上に嬉しくて、悪くないな、と思う。だが気になっていたことがあったため、トバリは顔を上げた。
「あの…」
「ん?」
「俺考えたんですけど。めちゃくちゃ簡単に計算しても、先輩が卒業するまで水曜日は90回来ます。一方で、遊園地のお金が1万8千円くらいですよね。弁当なんて安上がりなんで、一回100円だとしても180回作らないと先輩が負担してくれる分に届きません。水曜日だけとなると、卒業時点で50%も返済できてないことになります」
遊園地に行く7人のうち、無料となる末っ子を抜いた6人の平均チケット代金は、年齢差を考慮して一人当たり6000円ほどだ。割り勘すると、真堂とトバリで1万8千円ずつ。弁当代が一回100円なら180回払いとなる。
しかし真堂が卒業するまで残り21か月だとすると、簡単に平均して計算すると90回しか水曜日はないし、これは祝日や夏休みを考慮していない。どう考えても払いきれないのだ。
「別に、返済期間は設けてないし、利子だってない。俺が卒業して、トバリも卒業したらまた払ってよ。てか、一緒に暮らせば万事解決じゃん?」
「一生パシリってことですか」
「ほら中瓶、分かっただろ」
「これは大変だぁ〜、頑張れヨー君」
真堂の提案もそのあとの中瓶との会話もよく分からなかったが、別に卒業後でもいいなら今すぐ考える必要もない。それならいいかとトバリは呑気に昼食に戻るのだった。