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その後、昼食を取ってから海賊船に乗り、美紀とサラと子供用ジェットコースターに乗せ、メリーゴーランドに乗った。後半はトバリも乗り物に揺られることに慣れてきたものの、やはり浮遊感が苦手であることに気づいた。
ある意味、今後のヒーロー活動でも知っておくべきことだったので良かったのかもしれない。

そうして一行がやって来たのは、お化け屋敷だった。ちゃちなものだろうと高をくくっていたが、列に並んでみると出てくる大人たちがわりと顔を青ざめさせていて、だんだん下2人の口数が少なくなっていった。
月人は「作り物だし!」と粋がっていたが、その声音が硬いことは兄貴たるトバリにはバレバレであった。本当に余裕そうなのは真堂、ユイ、夏夜で、特にユイはにやにやとしていた。あの笑い方はいつものヤツだ。よからぬことを妄想して企んでいるに違いない。

何をする気だ、と内心警戒していると、ついに順番がやって来た。思いのほか暗い廊下、冷たい空気、ぞわぞわとするBGM。
入口を締められてさらに暗くなると、いよいよお化け屋敷感が高まった。そこへ、男の低く大きな声で脅すように前口上が語られる。殺人事件のあった洋館、というような設定だが、その声のおどろおどろしさと大きさ、そして不気味な空気に、ついに下2人の我慢の限界が来た。


「やだ、帰る、帰るーー!!」

「いやぁああ!!!」


ぎゃん泣きである。号泣し始めたサラと美紀に、うすうす分かっていたトバリは途中退場しようと提案しようとした。
そこへすかさず、ユイがぐいと出てきた。


「やっぱり泣いちゃったか、うん、仕方ないよね、月人は?」

「…帰る」

「よし、じゃあお姉ちゃんと夏夜お兄ちゃんと出ようねぇ」

「え、ちょ、ユイ、」


なんとユイは勝手にそう言うと、美紀を抱き上げサラと手をつなぎ、夏夜に月人と手を繋がせた。


「先出てるから!あとは若い2人で!」

「俺らが年長なんだけど!?」

「大丈夫だって兄貴。俺とユイで十分だから」

「お前まで何言って、」


しかしユイは良い笑顔で言うと、ぎゃん泣き勢を連れてさっさと非常口から退出していった。真堂と2人、廊下に残される。


「…マジか」

「…まぁ、ユイちゃんもああ言ってたし、さっさとクリアしちゃおっか」

「え、大丈夫ですかね…」


夏夜たちに任せておいて良かったのだろうか、と思っていると、真堂は苦笑する。


「ちょっとくらい大丈夫だよ、家でもあの2人が下の子の面倒見る時間多いんでしょ?」

「まぁ、そうですけど…」

「心配ならさっさとゴールすればいいさ」


真堂はそう言うと、トバリの肩を抱いて進みだした。思わずつられて歩き出すが、すぐに体制のおかしさに気づく。


「…いやいや、近いんですけど」

「そう?怖いかと思って」

「怖くないです」


からかわれていると思って離れると、普通に並んで歩く。暗い廊下を進むと、たまに驚かせるような音が発せられる。
これくらいなら全然大したことないな、と思っていたときだった。

バリッという音とともに、トバリのすぐ右側の障子から手が出てきた。こちらへ招くように伸びる手は、一応来場者から1メートル以上空いているのだが、その恐ろしさと突発的な事態から思わずトバリは左側の真堂にくっついてしまった。
真堂の右腕の袖をつかんだままその道を抜けると、恐る恐る真堂を見上げる。そこには、見本のような素晴らしい笑顔。


「怖くないんじゃないっけ?」

「っ、うるさいな」


パッと手を離す。しかし同時に、目の前の分岐から機械の悪霊のようなものが飛び出してきた。ぎょろりとした目と目線が合い、びっくりしたのもあって再びトバリの体は左側へ。

どうやらトバリはこういう類も苦手らしい。心臓が普段ではありえないほどバクバクと言っているのが聞こえてきたし、列にいるときに無視していた手の震えがついに知覚された。嫌だな、と思ったその瞬間、左手が暖かいものに包まれた。


「…先輩?」

「俺がいるよ」


からかいではない、安心させるような笑みで言いながら、真堂はトバリの手を包むように握っていた。こうやって、トバリの心の余裕がなくなるラインを正確に察して先回りしてくれるこの年上の優しさ。
その安心感が、トバリの心の中にじわりと広がった。


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