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一通り遊園地を回ったあと、トバリたちは日がだいぶ沈んだ空の下で帰路についた。
電車に乗ると、座ることを優先するために、夏夜とユイ、月人は離れた場所に座り、トバリは美紀を、真堂はサラを膝に乗せて座った。なんだかいつも真堂はトバリの左側にいる気がする。
窓の外の空は群青天鵞絨色というやつで、濃紺の黒ではない空は地平線にかすかにオレンジを残していた。
さすがに疲れたのか、サラと美紀は早々に睡魔に負けてそれぞれ寝ている。静かな車内で、トバリも心地良い疲労を感じていた。
「…先輩、」
「ん?」
「今日はありがとうございました。すいません、完全に子守りになっちゃって」
「いいよいいよ、全然。トバリの弁当が週一で食べられるんだし」
トバリはサラたちが寝ているうちに、真堂に礼を言った。真堂は軽く笑って流す。
だが、単なる後輩のために、金まで払って子守りをしながら遊園地を回るなどただ面倒なだけだ。こんなことまでしてくれる真堂は底なしの優しさを持っているんじゃないかとすら思える。
普段だって、真堂はやたらトバリに優しいのだ。あの釣りのときもそうだし、いつもトバリの側に寄り添ってくれる。
「…先輩には、ただでさえ世話になりっぱなしなのに。ここまでしてもらうなんて…」
それで弁当だけというのもわりに合わないのではないだろうか。
「そう?俺は、トバリと結婚して家庭持ったら、子供こうやって遊園地連れてくのかな、なんて想像できて楽しかったけどね」
「………へっ、」
一瞬受け流しそうになったが、言っていることの意味に気づいて耳を疑う。間違いでなれば、トバリと結婚して家庭を持ったら、なんて言っていた。
「……俺子供産めないの知ってます?」
「そこなんだ」
「冗談ですよ」
さすがに冗談だ。それだけ動揺しているのである。どういう仮定をしているんだろうか。
「なんで俺と結婚したらとか考えてるんですか。普通に結婚したら、で良くないですか。でもまぁ、先輩良い家庭築けそうですよね」
「前も言ってくれたよね、それ。そんなに俺、良い家庭持てそう?」
「はい、そりゃもう」
変な話の流れになりそうだったので、若干路線を変えて話すと真堂も続けてくれたかに見えた。だが、真堂もそんな単純な男ではなかった。
「中瓶とか真壁とかには、結婚向いてなさそうって言われるんだよね。結局のところ、良い家庭ってのは単体でできるものじゃない。相性の良いパートナーどうしで良い家庭を作るから、個々人を切り取って見てもそう見えるんだよ」
真堂の言葉は少し回りくどく、トバリは細かい意味を図れず首を傾げる。それに真堂は優しく笑った。
「つまり、トバリが俺のこと良い家庭築けそうなヤツだって思ってるんなら、それは、俺がトバリと一緒であれば良い家庭を築ける人間だってことだ」
「なっ、!」
ようやく意味が分かった。真堂はトバリと一緒なら良い家庭を作れる人間だから、トバリがそう思うのだということだ。とっさになんて言い返せばいいのかも分からず、トバリは急に照れくさくなってしまう。
隣の男の真意が分からなくて、トバリはどんな反応が正解なのか分からないのだ。ぐるぐるとしていると、真堂は苦笑する。
「この話はまた今度ね」
明確な逃げ道だ。だが、ありがたくそれに乗ることにした。膝でぐっすりと眠る美紀の高い子ども体温が、無性に落ち着いた。