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真堂からの真摯な言葉の数々に、突然の告白で混乱していたトバリは徐々にそれをきちんと理解していき、どんどん顔に熱が溜まっていくのを実感した。ユイの言う通りであった。

真堂が、自分を、好き。

それが恋愛の意味であることくらいトバリにもわかる。付き合うというのが交際するという意味であることも。

だが決定的に分からないのは、自分の気持ちだった。真堂の言葉を聞いて、ます嬉しいという感情があふれてきた。あとは照れくさいとか、そういうものも。
では同じく真堂のことを好きなのか、と聞かれると、分からなかった。好きという感情がよく分からない。家族に向けるものとは違う、恋愛というその感情は、今まで抱いたことのないものだったからだ。


「…俺、は……よく、分からないです、好きって、どんなものか…」


分からないが、しかし、なんの感情も抱いていないわけではない。真堂と出会ってからいままで、真堂に救けられてくる中で真堂に対して思うことはたくさんあった。


「…でも、俺は先輩に出会って、いろんなものをもらいました。素で話してもいいってこともそうだけど、先輩とはいろんな話ができて楽しいです」


自分を取り繕っているクラスにいるよりも、真堂と自然体でいられる時間が大事だった。何気ない世間話から舌戦まで何でも話せるというのも、トバリにとって気分の良いことだった。


「先輩にとって大事な場所に連れてってもらえてうれしかったし、あそこで先輩に話聞いてもらって、先輩の前では泣いていいって言われたとき、すごくすごく、心が楽になったんです。1年間張り詰めてたものが溶けたみたいで」


父が死んで、兄弟や母に寄り添って、家事に追われていた日々。自身の心の整理をないがしろにしていたことに気づいた真堂は、あの日、トバリに寄りかかっていいと言ってくれた。それが、どんなにトバリの心にとって救いになったか。それ以来、真堂に対して無意識に頼る自分を自覚した。


「先輩にそうやって頼るの、申し訳ないような気もしたんですけど、先輩はいつも余裕で俺のことを受け入れてくれて…この人になら、頼っていいんだって、思えるようになりました」


申し訳なさが完全に消えたわけではなかったが、真堂が家に来たときに、月人のことで思わずトバリが泣いてしまったように、真堂の前で弱い自分を見せることを厭わなくなった。今まで弟たちには決してそんなことはしなかったし、誰の前でもしなかった。それを真堂の前でできたのは、真堂に対する甘えである。


「遊園地だって、普通あんなこと、どんな優しい人相手でも頼みません。先輩だから、俺1人じゃできないこと、頼ろうって思いました」


トバリ1人では到底、弟たちを遊園地に連れて行くなんてできるはずもなかった。そしてそれを誰かに頼ることもありえなかった。真堂に頼めたのは、ただ、真堂だったからだ。


「…俺は、自分の気持ちが分かりません。好きなのかどうか。でも、俺は、」


心の中には確かに強い気持ちが渦巻いている。真堂に対する暖かな気持ちだ。


「…俺は、先輩と一緒にいたいです。先輩のそばにいたいし、隣に立ちたい。一緒にいてくれたら、安心します。体が触れたらドキドキして、笑ってくれたらあったかくなります」


なおもトバリの手を包み込む真堂の手。窓から吹く風を感じながら、トバリはこの名前のない感情を告げる。


「…この気持ちが、好きって気持ちだったらいいなって、そう、思うんです」

「……トバリがそう思いたいなら、それでいいと思うよ。俺もトバリのそばにずっといたいし、トバリのことを、ずっと近くで守りたいって思うから」


こんなにも暖かくて幸せな気持ちが、好きという気持ちであったらいい。そう思うと、真堂はそれでいいと言ってくれた。

それならばトバリは、この気持ちに、「好き」という名前をつけようと思うのだ。


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