穏やかな朝
2人の想いが通じ合い、体を重ねた翌日。
トバリの目が覚めると、ベッドに真堂の姿はなかった。目覚めが良いトバリはすぐに意識がはっきりとして、部屋を見渡す。カーテンの隙間から差し込む陽光がまぶしい。
スマホを見ると、学校に行くには十分早い時間のようだった。普段トバリが起きる時間よりは遅い。
階下から足音がするので、真堂は下にいたようだ。
足音は部屋の前で止まると、扉ががちゃりと開く。部屋に入って来たのは案の定真堂で、下半身だけスウェットを着て上半身は裸のままだ。逞しい体が朝の光に照らされる。
「お、トバリ起きてたのか」
「おはようございます」
「ん、おはよ。ごめんね、起きたとき俺が側にいなくて寂しかったでしょ」
真堂は持っていたコーヒーのマグカップをローテブルに置くと、トバリの頭を撫でる。寂しかったかと聞かれると、別にそうでもない。
「や、特に寂しくないですけど」
「このやろう」
撫でていた手はぐりぐりと脳天を押してきて、トバリはその手をどかそうと抵抗する。意外にも手は離れて、真堂はマグカップを持ってカーテンを開いた。
一気に陽光が部屋に差し込み、真堂は目を細めながらコーヒーを啜る。そんな姿がやたら様になるのだからイケメンはずるいと思う。
「俺の恋人かっこよすぎでしょ…」
「はは、どした?ま、俺の恋人は可愛すぎるけどね」
突然の言葉に真堂は爽やかに苦笑し、再びコーヒーを啜る。トバリはゆっくりベッドを下りた。ちなみに昨晩のうちに下着とジャージを下半身に纏っている。
真堂のすぐ隣まで行くと、日光を浴びて覚醒させる。平穏な住宅街が窓の外には広がっていた。
「そうだ、昨日ドンキでゼリー買ったんだ。食べる?」
「食べる」
恐らくトバリの食欲がわかないことを予想してのことだろう。実際、さすがに昨晩の疲れで朝食を食べる気にはなれなかった。
真堂は頷くと、いったん階下に戻った。冷蔵庫にしまっていてくれていたらしい。床のカーペットに座って待っていると、真堂がスプーンとともに戻ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「あざます」
スプーンとゼリーを受け取る。オレンジ味のゼリーで、さっそくトバリは食べ始めた。真堂は隣に座ってコーヒーを変わらず飲みながら、スマホをチェックしている。静かな朝の時間、トバリはゼリーをさっさと食べると、テーブルにゼリーとスプーンを置いた。
「ごちそーさまです」
「んー。体調大丈夫そうかな?」
「問題ないです」
「そっか」と真堂は返すと、スマホを置いて伸びをする。真堂が伸ばしていた腕を下ろして息をつくと、トバリは体を傾けてその肩にもたれる。自分からこうやって直接的に甘えるのは初めてで、少し体が硬くなってしまったが、真堂は気にせずトバリの肩を抱いた。
こうしたことはまったく慣れない。真堂が抱き締めてくるのは慣れたが、自分からいくのは別だ。しかし、そうしたことを躊躇わずにやれたのは、ただ2人の関係が昨日から変わったからだ。
そう考えると、まだ慣れていないことをこれから慣れていくのが、新しく始まった関係を深めるということなのだろう。
「…先輩、」
「ん?」
「今日は、別に寂しいとか思わなかったけど。起きたら先輩がいるっていうことに慣れていったら、きっと寂しく感じるようになると思います。だから、その…」
真堂はじっとこちらを見つめる。恥ずかしくてそちらは見れないが、その視線は痛いほどに感じた。
「…これから、慣れていきたい。先輩が起きていなかったら寂しくなっちゃうくらい」
「…だめだ、可愛すぎる」
すると真堂は急にトバリをぎゅっと抱き締める。そして至近距離で目が合うと、そのまま口を重ねた。トバリも応じると、静かに離れる。
「ふっ、オレンジの味すんね」
「先輩はコーヒーの味した」
額を突き合わせて、2人そろって小さく笑う。愛しい人と同じ朝を迎えるということが、これほどまでに幸せなことなのだと、トバリは初めて知ったのだった。