家族に寄り添う


期末試験が終了した7月中旬、テストが終わってから数日後に、トバリと家族にとって特別な日がやって来た。

父の、命日だ。

1年前の今日、父の乗った電車は敵が暴れたために脱線し、父はその場で亡くなった。敵は別の繁華街で暴れており、ヒーローに追われる中で架線の立ち入り、接近していた電車が脱線するに至った。
甚大な被害が出た事件であったために全国ニュースで取り上げられ、対応に手間取ったヒーローは批判された。特にこの辺りの街の人間からの非難の目は凄まじく、そのヒーローたちは事務所を別の街に移転していった。
悪いのは敵であって彼らではない。だが、彼らはこういうときに体よく怒りをぶつけられる相手となってしまうのだ。

あれから1年、メディアでも事件を振りかえる特集が散見されたが、その後も各地で色々な事件があったため、それほど大々的ではない。
しかしこの辺りの人々にとってはもちろんそうではなく、当事者たるトバリたちは尚更だった。

1年、柔らかな笑顔で子供たちを見守っていた父が永遠に帰らなくなってから過ぎた時間にしては、あまりに短いものなのだとトバリは痛感する。



***




命日が近づくごとに、少しずつ口数が減っていたユイと夏夜は、ある程度成長して分かることが多いため、敏感に1年という節目を感じているようだった。
まだ幼い月人やサラは1年という感覚を分かっておらず、いつも通りだ。末の美紀は当然ながら何も分かっていない。

ユイたちは夜に回すとして、トバリは月人とサラをどうするか迷った。父のことを気にせず普段通りに過ごす方が良いのかもしれないとは少し思う部分はある。しかし、やはり節目に故人を偲ぶのは大事なことだとも思う。失った悲しみをきちんと受け止めて少しずつ処理していくことが、大人になるにあたっての1つのステップでもある。何よりも、父のことを、死というつらい記憶としてまとめて忘れて欲しくはなかった。
優しくて、いつも柔和な笑みを浮かべて子供たちを見ていた父との思い出を、ほんの少しでもいいから覚えていて欲しい。だから、つらくともその死を思い出すことで、同時に楽しかった記憶も思い出し、心にとどめて置いてもらいたいのだ。

そう判断して、トバリは月人とサラをリビングに呼び、仏壇の前に一緒に座った。夏夜とユイは学校で、美紀は幼稚園だ。この2人は学校を休ませた。
胡坐をかいて座ると、サラを膝に乗せ、隣に月人を座らせる。目の前には遺影の父が微笑んでいた。


「月人、サラ。父さんが死んでから、今日でちょうど1年なんだよ」

「そうなの?」


月人は小4、それがどういうことかはさすがに理解できていた。小2のサラは無言で、きっと死んでから1年、というのが漠然と特別なことだとは感じているのだと分かる。
トバリは2人の頭を撫でながら、「早いな」とつぶやく。月人はうん、と頷いて、サラは無言でこくりと首を振った。


「覚えてるか?父さんが公園で、月人に飛び掛かられて砂場に転んだとき」

「うん、俺がぴょんってしたら、父さん支えれなくて」

「どろんこだった」


そうやって一つ一つ、2人と父との思い出を辿る。2人はいつもよりも静かで、だんだんと月人はぽろぽろと涙をこぼしはじめ、それにつられてサラも目元を拭うようになった。何となく小学生になって、泣くのが恥ずかしいと思っているところもあるのか控えめなようだったので、それは放っておくことにした。ただ頭を撫でてやりながら、2人の涙が自然に収まるのを待つ時間。ゆっくりとしたそれは、2人の幼い心にもゆっくりと感じられたことだと思う。


その夜には、今度はユイと夏夜をリビングに呼んで同じように父の思い出を話した。2人は一緒に過ごした時間も長かったため、それぞれ自身の思い出話も語られる。
リビングのソファーに、少し狭いがトバリの両側にユイと夏夜が座る。トバリの指示ではなく2人の自己判断だ。
夏ではあるが、エアコンが効いて涼しいのでココアを出してやって、それを飲みながら、仏壇にたまに目をやりつつ話す。夜の静かな時間にぽつぽつと話すことは、笑えるものもあれば、父の優しさを物語るようなものもあった。
だんだんとそれは父の優しさを偲ぶ内容になっていき、まずユイが、ついで夏夜が、声を震わせた。

両側の2人をそれぞれ肩を抱くように引き寄せて、ユイの頭を撫でる。夏夜もまだ中2、撫でることこそしなかったが、その肩を緩く一定のリズムで叩いた。


「っ、ぅっ、お兄ちゃん、」

「ん」

「お父さんに会いたい…お母さんに会いたいよ…!」

「そうだな」


いつもは変なところの多いユイも、ぐすぐすと言いながらトバリに縋りつく。こちらもまだ小6なのだから当然だ。母はまだ入院しているため、そう会えない。
きっと、ユイも夏夜も分かっている。こうして叶いもしないことを口にしながら泣くことが、心の整理のために大事なことだと。だから恥ずかしさなどは気にせずに、こうして兄であるトバリに縋るのだ。それで良い。


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