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「わっ、トバリ君お弁当なんだ!いいねぇ、お母さん?」
弁当は少数派なのか、中瓶は羨ましそうにする。普通は食堂か購買なのだろう。トバリは首を横に振って答える。
「いえ、俺が作りました。基本、家じゃ俺が料理してるんで」
「ええ!これトバリ君が作ったんだ!すごーい、料理男子だね!」
「そんな大したもんじゃないです…」
中瓶は大げさに驚く。真堂も震えるのをやめて意外そうに弁当とトバリを見比べていた。目が如実に語っている。こいつがこれを?と。
「冷凍とか?」
「や、冷凍高くて。弟たちの朝ごはんも兼ねてるから、全部作ってます」
「そうなんだぁ!これ全部とか、すごいねヨー君!」
「料理男子ってポイント高いしね」
意地でも褒める気はないようだが、トバリも褒められたいわけではないので気に留めない。ただ、否定しないのもそういうヤツと思われそうなので軽く話しておく。
「俺が料理しないといけなかっただけなんで。さっき言った通り、弟たちの分でもあるから」
「弟君いるの?」
ちょっと空気を硬くしそうだと思ったのだろう、そういうのに敏感そうな中瓶がすぐに話題を変えた。さすが先輩だ。というか、真堂に呼び出されたのに会話の中心は中瓶だ。
「はい、弟が2人に、妹が3人います」
「は?そんないんの」
それには真堂も驚いたらしく、純粋に目を丸くしていた。そりゃそうだ、今時珍しい。
「そうなんですよ。もうほんと、動物園ですよ」
「あはは、ウケる。トバリ君は一番上なんだねぇ」
「そうです。だから世話する中で、料理も俺がやってます。小中学生は体作るのに大事な時期だから気を付けたくて」
「そうなんだぁ、うん、ほんとトバリ君はいい子だよ。そう思ってそれを実行してるんだもん、しかもこんな高クオリティで!」
「え、いや、ほんとそんなんじゃないです」
やはり大げさな中瓶の言葉に、どう反応すればいいのか分からずとりあえず否定する。中学で人と関わってこなかったので、高校で初めて先輩というものに触れているのだ、難しいことをしないで欲しい。
「謙遜すんなよ、それは普通にすごいことだと俺も思うよ。えらい」
さらには真堂までそう言ってきた。からかっているのかと思って顔を上げて真堂を見ると、特に企んだ風でもなく微笑んでいる。本当にそう思っているのだ。やはりヒーロー科、裏表があると言えど、本質はとても優しい。
本気で褒められていると気付いてしまうと、いよいよどうすればいいのか分からなくなる。上げた顔をもう一度俯かせて、「ほんと、そういうんじゃないから、やめてください」と言うとくすりと笑う気配。
続いて、頭を撫でる感触があった。わしゃわしゃと、ちょっと雑ながら労わるような感じで。
手の主は右隣の真堂だ。にやにやとしているが、それは悪意というわけではない。
「照れてんの?かわいーじゃん」
「ほんとだぁ、カワイイね」
「な、にして…!」
「えらいえらい」
真堂はやめずに撫でてくる。その感触が存外気持ちよく、拒否しても続くものだから、うっかり自然と目を閉じてしまう。居心地が悪いはずなのに、とても落ち着くという相反する感覚だった。
「…はは、ほんとに可愛いな。ちょっとびっくりしてるよ」
「…ヨー君、悪いことしちゃだめだよ」
「俺を何だと思ってんだよ…」
先輩という未知との遭遇に、トバリ自身も戸惑う。最初から本性がバレてる状態というのも、どう対応すればいいのか分からなくさせた。猫を被っていればそれが行動基準となるため逆にやりやすいが、素でとなると途端に基準がなくなり迷ってしまうのだ。
ちなみにその後、弁当のおかずを分けたら再び真堂に撫でられて、さすがにやめてもらった。