chapter. 2−1
「独立したら、晴れてお前たちは王子と王女だ」
「グラエキア文明揺籃の国の王位を継承するのよ」
父と母のその言葉を、カストロは幼いながらによく覚えていた。
カストロとポルクスが生まれたのは、ラバルム暦1261年のことだった。双子として生まれた二人は、東ラバルム帝国アルカディア総督の嫡子として裕福な暮らしをしていた。
当時、すでに東ラバルム帝国は崩壊を始めており、カルプ戦争で
パンノニアや
ダキア、
ダルマティアが独立してから100年以上が経過していてことから、
グラエキアでもいよいよ、という風潮になりつつあった。
もともと、非常に古い文明を持つこのグラエキアが、後進のラバルムに併合されて1000年もそのままだったことこそ異常なのだ。そう、カストロとポルクスは両親に言われて育ってきた。グラエキアの誇り、それがアイデンティティですらあった。
独立機運が最高潮に達したのが、双子が6歳になった頃。
そしてその2年後、グラエキアは
アエゲス海を挟んで対岸のフリギアとともに独立を果たし、アエゲス王国を名乗るに至った。
アルカディア総督はアルカディア王となり、フリギア王、マケドノイ王、トラキア王、テッサリア王と並ぶ5王連合の一角を占める。両親の言葉通り、カストロとポルクスは王子と王女となったのだ。
しかし、それは長く続かなかった。
10歳になる年の始め、共和制を求めるグラエキア人による暴動が発生したのである。
専制国家を作ろうとする対岸のフリギアと折が合わず、アエゲス海を挟んだ国家はもはや運営できなくなり、ついにテッサリア、トラキア、マケドノイ、アルカディアは王家を廃止してしまった。
そしてフリギアに隷属したという罰で、両親は処刑されることになった。
両親は必死に二人を逃がそうと、首都パランティロンから海岸まで二人を抱えて走り、小さな船に二人を乗せた。
「あとは海の神が運んでくださる」と言って、父も母も涙を流しながら二人を見送ったのである。
その後、両親がどうなったのか二人は知らない。恐らく、処刑は実行されたのだろう。
小舟は海流に乗って、
エトルリア半島と
ルメリア半島に挟まれた
アドゥール海を北上。いくら温暖な海とはいえ真冬だったこともあり、二人は寒さと空腹に極度に疲弊しながら、海上をただ彷徨っていた。
漂着したのは、旧西ラバルム帝国の領土で、当時はロタリンギア王国の南東端にあった、ロンバルディア。
その港町であり、水の都の雅称で知られ、アドゥール海の女王とも称えられる大都市
ヴィネギアにほど近い海岸で、二人は何日かぶりに土を踏んだ。
もしも神の加護があったというのなら、きっとこの時だろう。
砂浜で行き倒れた二人に手を差し伸べたのは、華麗な服に身を包んだ少年。ほぼ年齢が変わらないであろうに、やけに大人びたラウルとの邂逅だった。