chapter. 1−7
国土が分割され戦場となる危機を前に、ラウルは即位と同時に魔法を駆使して貴族を脅しながらレッツェ勅令による国の再編を行い、同時にブリタニアと同盟して外交政策も一新した。
しかし、それだけがレッツェ勅令が機能している理由ではない。
ラウルには、レッツェ勅令を実行する上で、強力な助っ人がいたのである。
「へ〜いか、何やってるんです、こんなとこで」
仕事があるカストロ、ポルクスと分かれて一人で廊下を歩いていたラウルにどこからともなく声をかけてきたのは、ロビンフッド。姿を隠す魔法が使える人物であり、突然目の前に現れた。
「…国王が玉座にいないと問題か?」
「はは、それを俺に聞きます?王とか宮廷社会だとか、俺には理解できねぇってのに」
オレンジに近い茶髪で緑のマントを羽織った男は、ラウルより5つ年上の21歳。カストロと同じ身長だが、カストロより体格が良く、大人の男然りとしている。
ロビンは魔法が使えるが、元はブリタニア貴族の庶子で傭兵だったことから、王族でも貴族でもない。そのため、名字を持たない。
また、服装も貴族のものではなく、上半身の肌着は麻布でズボンであるブレーの中にしまい、白いウールのコットは膝丈でブレーの大部分が見えている。腰のベルトでしっかり留められ、全体的に体のラインに沿っている。それらを隠すように緑色のマントを羽織っていた。
そんな立場の人間が気安くラウルに話しかけるなど本来はあり得ないが、この男はラウルに直属する何でも屋だ。護衛でもあり斥候でもあり伝令でもありスパイでもあり、そして世話係でもある。
このレッツェ城を要塞化したのも、ロビンの指揮によるものだ。
かつて、その罠の構築能力と極めて精緻な陣地作成能力、それらをカバーする魔法によって、ガリア軍を苦しめた。
ブリタニアが戦争に負けてガリアを撤退した後、残されたブリタニア人の中で捕虜となっていたロビンを、ラウルがこっそり保護して招聘したのだ。
ラウルが12歳、ロビンが17歳のときである。
ラウルはとにかく信頼できる味方が必要で、そのためにロビンを助けたのだ。
そんな利己的な目的で始まった関係ではあるが、ロビンにとっては天職でもあったようで、今ではすっかり、いろいろと世話を焼いてくれている。
「宮廷社会を理解できないわりに、しっかり情報通やってくれてるだろ」
「仕事ですからねぇ。こう見えて演技は得意なんですわ」
「本当の貴族にしてやってもいいけど?」
「勘弁してください、なんとか公だかなんたら伯だか、舌噛んじゃいますよ」
肩を竦めるロビンにラウルは小さく笑ってから、一緒に廊下を歩き出す。
「双子は一応、伯位を受け取ったのにな」
「そりゃ、あれはもともとアルカディア王家じゃないですか。下女の子とは違いますよ」
「誰の子だろうと、俺には一番信頼できるヤツなんだ。本当はこんなすごいヤツなんだぞって世界に喧伝したいくらいだってのに」
「っ、陛下が言うと洒落になんねぇっすよ」
ちょっと照れたようにしたロビンだったが、ラウルはそのマントをぐいっと引っ張って顔を近づける。
「今、俺とロビンの二人なんだけど」
「…失礼しました、ラウル。ったく、ほんと可愛いなあんたは…」
「可愛いは余計だし不敬だぞ」
「おっと、そりゃすいやせんね」
ロビンには、二人のときは名前で呼べと言ってある。陛下などと仰々しい呼び方は、なるべく近しい人にはして欲しくなかったのだ。
それを暗に指摘すると、ロビンは苦笑してラウルの腰に手をやって、エスコートするように廊下を伴って歩き出した。
ロビンは、レッツェ勅令実行のために宮廷社会で暗躍し、情報を集めてラウルと双子がすぐに動けるように根回しをしている。
その地道なスパイ活動によって、レッツェ勅令はかなり進捗したのだ。
一方で、こうしてラウルの隣で気兼ねなく接してくれる兄のような人でもある。
もともと王侯貴族でないこともあって、ロビンは等身大でラウルと話してくれるため、ラウルにとっては心安らぐ場所の一つだった。
思えば、カストロたち双子と出会って5年、ロビンと出会って4年になる。それまでの華やかだが孤独だった宮殿と、今の質素だが信頼できる者たちのいる城とでは、比べるまでもなく、今が大切だ。