chapter. 8−5
「あぁ。俺が玉座を降りた方が平和になるならそれでもいい。けど、俺が王として努めを果たさないと、ロタリンギアでは多くの血と涙が流れる。足元では多くの餓死者も出てたしな。だから、国内の生産力を高めて経済的優位性を確保しつつ、次々と同盟国を築いていった」
「それで?具体的にどこと同盟しているというのだ」
「まずブリタニア。ガリアとゲルマニアをもろに牽制できるよう、モース川とスヘルト川の河口域を叙任している。そしてブリタニアの同盟国であるルシタニアとバエティア、それからポルスカ=ルテニア連合王国に、アヴァール王国。連合王国とブリタニア王国以外はすべて俺が戴冠式を行った」
「…ハッ、まさにガリアとゲルマニアを包囲する布陣か。よくもそれほどの同盟を成立させたものだな」
「で、最後がここだ」
そしてラウルはついにメインの議題を述べた。分かってはいたはずだが、ルキウスは笑みを深める。
上体を背もたれから起こすと、両腕を両膝について体を前に乗り出した。
「西ラバルム帝国の皇帝家が、東ラバルム帝国の皇帝家に同盟を申し込むか。家名に有するラティウムの名が今どの国にあるのか、知らないお前ではあるまい」
迂遠な言い方だが、要は「お前がこちらに併合されるべき」という趣旨である。ラティウムに名を戻した都、旧カイスラにあたる帝都にて、ルキウスは皇帝として即位しているのだから。
ラティウム=トレヴェリスというラウルの家名を見ても、そのラティウムを統治するルキウスの方が格上だと言いたいのだ。
「家柄で言えば西も東も同じだろ。確かに西ラバルム帝国は早々に分裂した、それでもウェスティアの宗主権はロタリンギア王家に残っているし、一時は形骸化したそれも俺がある程度再興させた。何より…」
ラウルも同じように上体をやや傾けて、上質なテーブルに手を置いてルキウスを間近で睨む。
「ここはウェスティア、お前の庭じゃねぇ」
「…ハッ、同盟の提案にかこつけた牽制か?いいぞ、実力でどちらが上か決めるのも吝かじゃねェが?」
「残念だけど、実力なら軍事力でこちらに適う状況じゃないのは理解してるだろ。それに、この同盟は、少なくとも新ラバルム帝国にとっては別の性質を持つものだ」
「ほう?」
ラウルは体を戻すと、挑発する姿勢から元の議論の居ずまいになる。ルキウスは少し残念そうにしていた。
「一つ、もしもガリアかゲルマニアが新ラバルム帝国に侵攻した場合、ロタリンギアを含む全同盟諸国が侵攻した国に反撃する。二つ、新ラバルム帝国がガリアかゲルマニア、あるいはほかのいかなるウェスティア・オスティアの国に軍事力で侵攻した場合、ロタリンギアとその同盟およびガリア・ゲルマニアを含めて総動員して反撃する」
「…なるほど?つまり、俺から喧嘩を吹っ掛けた場合にはガリアとゲルマニアを含むすべての国が俺を袋叩きにするが、俺が侵攻を受けた側であれば、ロタリンギアと同盟諸国が助太刀に来ると」
「その通りだ。ガリアとゲルマニアは、ロタリンギア領土を狙っているが兄弟国であることに変わりない。新ラバルム帝国は、お互い以上に奴らにとっては敵国だ。お前が暴れれば、同盟に関係なく、旧西ラバルム3王国は反撃する。逆にガリアとゲルマニアが新ラバルム帝国に侵攻するならば、ロタリンギアやブリタニア、ポルスカ、アヴァールが黙っていない」
ガリアとゲルマニアにとって、お互いは将来的に敵対する可能性がある国であり、ロタリンギアは王権を強化し国力を高める素材のようなもの。一方、新ラバルム帝国は明確に現時点で敵国だ。
なぜなら、両国とも国内保守派貴族たちが力を持っているため、東ラバルム帝国の血筋に正当性を認めるような政策を取ろうものなら、途端に国家は分裂するからだ。何より、どちらの王にもプライドがある。西ラバルム帝国の後継国であるという自負だ。
このことから、新ラバルム帝国が戦争を始めれば、旧西ラバルム3王国を含むすべてのウェスティア・オスティア国家が反撃を開始する。同時に、ロタリンギアとの同盟関係があれば、ガリアやゲルマニアが先制攻撃を行った場合、周辺の国々から挟撃されることになるだろう。
「俺の見立てでは、少なくともロタリンギアと新ラバルム帝国の同盟関係が公開されている限り、ガリアとゲルマニアが揃って新ラバルム帝国に攻め込むことはないと思ってる」
「根拠は?」
ラウルはなんと答えようか少し迷ったが、ルキウスの射貫くような視線を前に誤魔化すわけにもいかず、こんな回答をする場面ではないと分かっていつつ、正直に答える。
「…ガリア王シャルルは、その…なんか知らないけど、俺と結婚したいらしい……」
「……は、」