chapter. 9−5


宿の最上階、最も高級な部屋に入ると、戦災で大きな打撃を受けた街のものにしては綺麗になっていると感心した。
地方領主の屋敷くらいの装飾は施されており、設備もきっちりしている。曲がりなりにもテッサリア第二の都市といったところか。

部屋割りは若干揉めたが、護衛と世話役を兼ねてラウルの部屋にはロビンも宿泊する。カストロは「無体を働くなよ」と歯ぎしりしながらロビンに忠告していた。カストロとしては、ロビンとポルクスを一緒にするわけにもいかず、かといってラウルとポルクスを一緒にするのはラウルが拒否し、結局双子で同じ部屋にならざるを得ないという結論に至ったようだ。


「夕餉の支度は俺がやっておくんで、先に湯浴みしてきたらどうです?部屋に備え付けなんで」

「あぁ、ありがとな」


ロビンはさすがの気遣いで、ラウルはすでに用意がされてある湯浴み場で体を流す。今日はほとんど歩いていないため、特に汚れを気にしているわけではなかったが、異国の地ということもあり、温かいお湯にほっとする。

適当に体を拭いてから、ラウルはグラエキア風の白い布を適当に纏い、帯も適当に緩く締めて、居室に戻った。
テーブルに食事を並べていたロビンはちらりとこちらを見て視線を戻してから、バッとこちらを二度見する。


「ちょ、なんつー恰好で外出てんすかあんた!」

「え、ダメだったか」


さすがにちょっとだらしなかっただろうか、と首をかしげる。確かに、緩く布を纏っているため、右肩は完全に出ているし足元も見えている。
ロビンは慌ててこちらにやってくると、布をきっちり巻こうとする。気温も湿度もロタリンギアよりはるかに高いため、ラウルは風呂上りということもありロビンを制する。


「別にいいって、これくらい。誰とも会わないし」

「そういう問題じゃねぇんですよ…!」


なぜか焦っているが、あとは食事をして寝るだけだ。ロビンとて傭兵あがり、こんな雑然とした服装を気にするような生活ではなかったはず。


「じゃあ何が問題なんだ?暑いから別にいいだろ」

「…、そーですかい…じゃ、分からせてやった方がいいな」


すると、ロビンはすっと目を細める。そして、ラウルをそっと、しかし強くベッドに押し倒した。一瞬であおむけになり、天井とロビンが視界を占める。


「ロビン、」

「いいんです?このまま、乱れた布の間から手ぇ差し込んで。あんたくすぐったがりだからなぁ…きっと、乳首でも感じるんでしょうねぇ」


するりと胸元の布から手がほんの少しだけ差し入れられる。それだけでびくりと体が震え、ラウルはようやく、ロビンがどうして焦っていたのか理解した。
少し迷ってから、ラウルはロビンの頬をそっと撫でる。ロビンは目を見開いた。


「別に、俺はロビンならいいけどな」

「な…ッ、いいわけないでしょ、あんたはロタリンギア王、俺は下女の子だ」

「大事な人に触れられるのは安心する。それだけだ。これだけ俺のこと大事にしてくれておいて、今更身分とかどうでもいいだろ」

「…、ラウル……」

「ま、明日は登山だからどっちみち今日はここまでだけどな。ほらどけ」


どす、と軽くどつくと、ロビンは呆れたようにラウルの上からどいた。ラウルは起き上がり、軽く布を締めなおしてから食卓に向かう。


「…たちわりィ」

「惚れた方が負けだろ」

「くっそ…いつか啼かしてやる」


ロビンは諦めたようにそう言ってから、ワインを注ぐために立ち上がり、ラウルの元へやってくる。
冗談でもなんでもなく、ラウルが言ったことはすべて本心だ。

しかし、ロタリンギア王として世継ぎが必要なのだという事実は、目を逸らしていても、ふとした瞬間にラウルに迫るのだ。


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