chapter. 9−6
翌日、朝食をとってからペリオン山にいよいよ入ることになった。
双子とも合流し、ロビンとラウルはともに透明化して双子が先導する形で宿を出る。
港町は朝から大賑わいで、宿のある大通りはごった返しているものの、ロビンはあらかじめ裏道のルートを確認していたため、人にぶつかるようなこともなく、一同は市外へと出ることができた。
ここからはロビンとラウルも姿を現すが、相変わらずフードは被ったままだ。カストロとポルクス、姿をグラエキア人のものに変えたロビンだけは軽くフードをしているだけだが、ラウルは目深に顔を隠していた。
そうして街道をはずれ、ペリオン山の麓に来ると、カストロはラウルに山の中腹を指し示した。
「あの中腹あたりの峰が見えるか?」
「あそこ?」
「ああ。あの中ほどに転移すればすぐ辿り着くはずだ」
「分かった」
ラウルはカストロが示した通りの場所に意識を集中し、4人全員で一気に転移した。
カストロはあらかじめラウルの腰を抱いていたが、その理由はすぐに分かった。
転移した先は山の中であり、斜面になっている場所でもあるため、着地と同時に体がぐらりと揺らいだ。カストロに支えられたおかげで、転ぶこともなくカストロの腕の中に抱き込まれる。
ポルクスとロビンは当然のようにしっかりと立っていた。やはり鍛錬の差だろう。ロビンは慣れもあるだろうが。
「立てるか?」
「なんとか。全然考えてなかった、こんな場所に転移するの初めてだったから」
「フ、山道に慣れている王族などいるものか。獣もいる、俺から離れるなよ」
カストロはそう言って、ラウルの腰を抱いたまま歩き始めた。カストロからすれば歩きづらいだろうに、危なげなくラウルを支えてくれている。
ロビンはさっと木の上に上って、枝から枝へと飛びながら進み始めた。敵影や獣を警戒してくれているのだ。敵とは、ここでは山賊を指す。
ポルクスもいつでも抜剣できるように神経を研ぎ澄ませていた。
歩きづらい山道を、カストロにしがみつきつつ進んでいくと、やがて人の手が入ったような区域に差し掛かった。
依然として深い森の中だが、どこか人工的なのだ。
「…そろそろか?」
「よく分かったな」
「ほんっと、王様のくせによく気づきますねぇ。人の手が入ってることに気づいたんでしょう」
「レッツェの森を拓いたのはロビンだろ、だから自然の森と人の手が入った森はなんとなく分かる。カストロ、失礼のないようにそろそろ手を…」
「不要ですよ、ロタリンギア王。転ばれてしまっては大ごとです」
するとそこに、4人とは別の声がかけられた。ポルクスとロビンは警戒したが、カストロはぱっと表情を明るくする。
「ケイローン先生!」
「はい、お久しぶりですね、カストロ」
その声とともに、茂みの影から突然現れたのは、長身に長い髪を揺らした逞しい男だった。先生とカストロが呼ぶのだ、目的のケイローンだろう。
「お初にお目にかかる。俺はロタリンギア王、王都の名前を含む会話からあなたが察した通りだ」
「これは失礼を、私はケイローン。このような山で暮らすうち、いつの間にやら賢者などと大層な呼ばれ方をされてしまっている、ただのしがない男です」
ケイローンは人のよさそうな笑顔で挨拶を返してくれた。声も物腰も知性の塊のような人物である。
ケイローンはカストロがラウルをしっかり支えているのを見て、どこか感慨深そうにする。
「…カストロ、そしてその妹君ポルクスがアルカディアを逃れたという一報は聞いていました。身を案じていましたが…まさか、ロタリンギア王にお仕えしているとは。……良い、出会いだったのですね」
「……はい、先生。俺の人生はこのためにあったのだと思える、そんなお方です」
「カストロ…」
ぐっとラウルを抱き込む力が強まる。真摯な言葉に、ケイローンは満足そうに頷くと、獣道の先を示す。
「さあ、こんな場所に王を長居させるわけにはいきません。私の居所でよろしければお招きしましょう」
「突然の来訪で申し訳ない。気を遣う必要はないからな」
「まさか。ただの王であればそのようにしましたが、カストロを見れば、あなたが特別な王であることは一目瞭然。いえ、そも、カストロたちグラエキアの子をここまで救い、慈しんでくださったのです。最大限のもてなしをお許しください」
「…分かった。なら、謹んで受け取ろう」
アポなしでやってきたこちらを気遣う必要はないと伝えたのに対して、ケイローンはカストロたちへの思いに基づくものとして答えた。ならば、ラウルはそれを受け取るのが王としての義務だ。