chapter. 9−7
ケイローンに招かれて、4人は山の中にある洞窟にやってきた。
洞窟と言っても、きちんと水辺が整備され、入り口には木製の壁と扉、窓が嵌められている。どこかの水源から引かれてきたのだろう小川が美しい水を湛え、その周りには花が自然な様子で咲いている。
まるでおとぎ話の妖精が暮らすような場所に、ラウルもついテンションが上がってしまった。
「うわ、すげ。俺ここに住みたい」
「ふふ、お気に召したようなら良かったです」
ケイローンは微笑んで扉を開ける。ポルクスもファンシーな空間に頬を染めていたが、ロビンとカストロは特にピンと来ていないようだった。
とりあえず中に通されると、毛皮のマットを促され、そこに腰を下ろす。ハーブティーを淹れてくれたようで、木製のコップを受け取った。
ラウルの隣にはカストロが座り、ロビンとポルクスは二人の後ろに控えるように腰を下ろした。
「…さて。遥々ロタリンギア王がこんな辺境にまでお越しになったご用向きをお聞きしても?カストロとポルクスの里帰り、ではないでしょう」
「それもゼロじゃないけどな。まずはあなたにお会いしたかった。グラエキア最大の賢者だと、ミクラガルズで最後まで戦った皇帝も言っていた」
「東ラバルム帝国の正当な皇帝として最後の人物、コンスタンティノス帝ですね。彼もロタリンギアにいるのですか」
「ああ。彼も東ラバルム帝国の皇帝らしく、基本的に軍人だ。だから、ロタリンギア軍の面倒も見てもらっていたんだが…やはり、専門職が必要だろうという話になった。知将が必要だということで、グラエキアまで来たわけだ」
ケイローンは軽く驚いてはいたものの、ある程度想定内のことではあったのだろう、特に動揺はない。
「つまり、私にロタリンギアで将となって欲しい、ということでしょうか」
「将、あるいは軍略家だな。ロタリンギアは今、東西の兄弟国であるゲルマニアとガリアに領土を狙われている。両国はいずれ、西ラバルム帝国の再興を目指して衝突するだろう。そうなったとき、戦場になるのは緩衝地帯となったロタリンギア領。俺は、民の命と生活を守るためにも、国を強くしなきゃいけないんだ」
「なるほど。軍事面以外での対策はどうなさっているのです」
「経済面でゲルマニアとガリアに対して、ロタリンギアへの依存度を高めるよう施策を行っている。すでに大陸中を結ぶ交易ネットワークの中心をロタリンギアに据えることには成功したし、各国の通貨とロタリンギアの通貨も固定した。国力もかなり増強されている。あとは、ブリタニア、バエティア、ルシタニア、ポルスカ=ルテニア連合王国、アヴァール、高モエシア、イリュリア、そして新ラバルム帝国との同盟も構築してある」
そこまで一息に共有すると、ケイローンは先ほどよりも驚きを露わにした。
「…これは。なるほど、若きロタリンギア王の噂は聞いていましたが、それ以上だ。勢力を均衡させつつ、経済的に優位に立つことで、戦争を予防している…最後にして最も重要なものが、ロタリンギア自身の軍事力、というわけですね」
「そういうことだ。今のところ、莫大な王室直営事業の利益によって常備軍の雇用を行って日々訓練を可能にしているけど、こればかりは一朝一夕にはいかない。何よりトップが重要だ」
「同意します。その状況であれば、必要な人材を確保することが急務でしょうね。ふむ…」
ケイローンは少し考え込む。いきなりグラエキアからロタリンギアに移住するなどとんでもない大移動だ。いくら転移があるとはいえ、生活環境の変化はかなりものになるだろう。
すると、思考しているケイローンに、カストロがおもむろに口を開いた。