chapter. 9−10
ケイローン、アスクレピオスを連れてロタリンギアに帰国する前に、ラウルはカストロとポルクスにアルカディアに立ち寄るかどうか尋ねた。
どうせあとは転移して帰るだけであるため、途中でパランティロンに寄り道するのは容易い。
二人は少し迷ったようにしていたが、双子らしく声を重ねて肯定した。
そうして、ペリオン山から一度、一同はアルカディア共和国東部の丘に転移した。パランティロンの東、同じように低木がぽつぽつと生えている乾いた大地であり、前の世界でトリポリスの近くにあたる地域だ。
二人がここを追放されたのは10歳のとき。16歳になった二人はすっかり大人びており、顔立ちも変わっているだろう。何より、二人をよく知る人々は軒並み処刑されているはずであり、今更アルカディアの人々の前に二人が現れても、旧王族とは分からない可能性が高い。
それでも念のため、というより二人からすればラウルのためだろうが、ローブで顔を隠して移動することにした。
一応、ロビンがグラエキア人の姿をとり、ケイローンとアスクレピオスも顔を出しているため、ラウルを含む3人がフードをしていてもそこまで怪しまれることもないだろう。
「私が聞いた限り、処刑された人々は郊外のネクロポリスにまとめて埋葬されているそうです。分かっているとは思いますが、安置されている区画は…」
「罪人区画ですね。分かっております、ケイローン様」
「様、は不要ですよ。呼び捨てでも構いませんが、心苦しければカストロと同じように」
「…それではケイローン先生。私も兄様も、承知でここにいます」
ケイローンは、処刑された人々もほかの市民と同じ集団埋葬地であるネクロポリスに埋葬されていると教えてくれた。特に墓場を分けてはいないということだ。そういう場所を迂闊に増やすよりも、一か所にしておきたいという心理だろう。
ネクロポリスは巨大な集合墓地であり、普通は都市や共同体の集落から街道をやや離れた場所に位置する。中は普通の死に方をした都市住民のほか、身分や処刑などの属性で分類されている。
沈黙するカストロに代わって、意外としっかりした声でポルクスが答えると、ちょうど道の先にネクロポリスが見えてきた。丘陵を利用して、中をくり抜くようにして建設されている。ところどころ、斜面に入り口や通気口となる人工の壁が見えていた。
入り口に着いて中を窺うと、特にパランティロンの市民の姿はなさそうだ。とはいえ内部はかなり広い、ほかの通路には人もいるかもしれないが、二人ならなんとかするだろう。
「じゃあ、俺たちは外で待ってる。時間は気にしてなくていいからな」
「はい、ありがとうございます」
またもポルクスが答えてから、カストロと二人、中へと入っていく。
ラウルとロビン、ケイローン、アスクレピオスは外で待つことになり、厳しい日差しを避けるようにして木陰に入った。
死者の丘だからだろう、4人もいるのに無言になってしまう。
風が通り抜けていく音だけが辺りに満ちており、時折、鳥の鳴き声が聞こえてくる。
ふと、ラウルはケイローンに尋ねてみることにした。
「…なあ、ケイローン」
「なんでしょう」
「今のグラエキアの人々は、元王族に対してどういう感情なんだ?開戦当初は、フリギアと繋がってる、っていう見方だっただろ」
「そうですね…地域差はありますが、この辺りであれば、恐らくもう何の感情もないのではないでしょうか。6年も経っていますし、何より支配階級への意識はもともと強くない地域ですから」
「ま、農民なんてそんなもんですよ」