chapter. 10−2


「…そろそろ同盟の準備も大詰めだな。公開したらすぐ、ゲルマニアから会談の要請があると思う」

「だろうな。大軍を率いてメティスまでやってくるのではないか?」

「…俺もそう思う。それまでに、早く軍隊を付け焼き刃でも戦える状態にしねぇと…グラエキアから招いた客将がかなりのところまで持って行ってくれてはいるけど」

「俺が力を貸してやってもいいが?」


ニヤリとして言ったルキウスに、ついラウルはジト目を向ける。


「…代わりに何させる気だよ」

「うん?そうさなァ…」


クロスした前髪の下から覗く鋭い眼光がこちらを見据えた直後、ルキウスは一瞬でテーブルを乗り越え、ラウルを長椅子に押し倒すようにして乗り上げた。


「なッ、」

「やはり戦闘面ではからっきしだな」


肌触りの良いソファーに背中をつけたラウルが見上げた先には、獰猛な肉食獣を思わせるルキウスが天井を隠し、その分厚い手がラウルの手をソファーに縫い留めていた。


「このまま俺に抱かれるなら1週間でロタリンギア軍をウェスティア最強に仕立ててやろう。味見程度までなら3日間で精鋭レベルにしてやる。どうだ?」

「何バカなこと、」

「そうか?たった数か月でエトルリアとトリナクリアを滅ぼし半島の住民を統一してみせたこの俺の手腕だ。悪い話ではないだろう」

「…、それは…」


正直、3日間でもルキウスが軍を見てくれるのなら、それは非常に助かる。一方、味見というのがどこまでか分からない。
別に、貞操がどうのということは気にしていない。ラウルとてその辺りはどうでもよかった。それよりもっとシンプルだ。ラウルは視線をそらして呟く。


「……ちょっと、こわい、」


そう、単にそれだけだ。男にそういうことをされるというのは初めてのことで、未知の体験への恐怖感があった。
しかし、ルキウスはぐっと息を詰まらせると、長く息を吐きだした。そしてそのまま、ラウルを抱き込むようにして長椅子に横になる。といっても、ルキウスの長い脚がほとんどはみ出しているが。


「………くそ、あまりのあざとさに、味見で終わらないと確信したが、それと同時にお前に怯えられることが堪える自分もいる。お前だけだぞ、ここまで俺を翻弄するのは」

「そう、か……」


勝手に翻弄されているだけだろうと思ったものの、恐らくそれを言うと確実に手を出されるため口をつぐんだ。
いつの間にかルキウスの左腕に頭を乗せられる腕枕のような状態で抱きしめられており、ラウルはその胸元に顔を埋めて表情を隠しながら、代わりの言葉を口にした。


「お前が怖いとか、お前が嫌、とかじゃねぇ、から…その、まぁ、気が向いたらな」

「…お前、絶対に抱くから覚えていろ」


低く唸るように言ったルキウスに、さすがに危機感を覚えてその下から転移して抜け出す。長椅子の近くに立つと、憮然とした様子を見下ろすことになり、なぜこうも意図せずこの男の琴線に触れてしまうのかと頭を抱えたくなった。

とりあえず起き上がったルキウスが情欲の色を隠したのを見て、ラウルはその隣に戻り腰掛ける。
ワインのグラスを傾けていると、視線を感じて左側に目を向ける。


「……なんだよ」

「お前は…今まさに襲おうとしていた相手の隣によくも平然と戻ってきたものだな」

「なんだかんだ俺のこと大切にしようとしてくれてるのは本当だって理解してるしな。ここお気に入りの椅子だし。あぁ、それに」


ラウルはグラスをテーブルに戻しつつ、隣の切れ長の瞳を見上げて笑う。


「せっかく近くにいるなら、隣にいないとな?」


もちろん、隣にいて欲しかった、というルキウスの言葉は立場の話であり物理的なものではないが、それを分かって言えば、ルキウスはため息をついて項垂れた。


「…クソ、お前、懐に入ってからの方が厄介な類か……」

「失礼だな」


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