chapter. 10−3


なんだかんだ、ルキウスはラウルに手を出すことはせずに、ロタリンギア軍を見てくれることになった。
それと合わせ、ラウルは新ラバルム帝国との同盟公表の前に、一度同盟国の王が一堂に会する機会を設けた方がいいと判断。書簡でやり取りができる国々の王も賛同したため、急遽7月末に同盟国会談を開催する運びとなった。

場所はロヴェン、下ロタリンギア公が暮らすロヴェン宮殿とし、参加するのはブリタニア王アーサー、ポルスカ大公カドック、アヴァール王マンドリカルドが公式発表のメンバーである。
他の同盟国であるバエティア、ルシタニア、イリュリア、高モエシアは、実質的にはそれぞれブリタニアやポルスカ=ルテニア連合王国の同盟国であるため、ロタリンギアとの会談はアーサーやカドックに任せている。

そして非公式の参加者がルキウスだ。まだ同盟を公表していないため、秘密裏に会談を行う予定である。

公式の参加者は直接ロタリンギアにやってくる。
アーサーは海路でアンドウェルピアに上陸してから陸路でロヴェンにやってくるため一番近い。カドックはクラクスから船でウィストゥラ川を下り、河口のゲダニアから海路でエステル海とノルド海を抜け、アンドウェルピアから上陸。マンドリカルドはダーニステル川を船で遡上してから、レオポリスを経由してヴァルソヴィアまで陸路を進み、ヴァルソヴィアからはカドックと同じくウィストゥラ川とエステル海・ノルド海を通るルートである。

ルキウスは、ラウルが事前にラティウムまで迎えに行ってから転移でレッツェ城に招いており、双子に応対を任せている。


真夏のからりとした空気の中、メティスほどではないが華やかで美しいロヴェン宮殿に3人の王と大公が集まる。
いずれの旅団も船旅だったため、船舶を管理する者たちはアンドウェルピアに滞在し、陸路を管理する者たちはロヴェンに滞在することから、どちらの街も要人の来賓に沸いていた。3か国の旅団の合計は実に1000人近くになる。

まずは昼食会ということで、宮殿の貴賓食堂室の大きなテーブルにラウルを含め4人がついた。

四角いテーブルの4面それぞれに着座し、ラウルの対面にはアーサー、右にはカドック、左にはマンドリカルドが座っている形だ。


「改めて、遠方から遥々来てくれてありがとう。足労かけてすまない」

「直接ロタリンギアを見たのは初めてだからね、むしろ良い機会をありがとう」


早速、アーサーがにこりと微笑んで答える。やはりブリタニア王の方が発言権は上になる。本来、このあとはマンドリカルドが口を開くべき場面だが、案の定、ド緊張した面持ちのマンドリカルドは「アッアッ」と変な声を発している。
見かねて、カドックがポルスカ大公という事実上の王に近しい立場であることから、先に口を開いた。


「あー…僕もロタリンギアは初めてだ。アンドウェルピアも見ることができて勉強になった。アナスタシアはひどく拗ねてしまったが」

「大公が揃って国を空けるわけにはいかないしな。また今度、より大々的な国賓として来てくれ」

「そうするよ。あとでアンドウェルピアの土産物のお勧め教えてくれ。手ぶらで帰ったら氷漬けになる」

「夏だからちょうどいいんじゃないか」

「おい」


あえて少し砕けた話をすれば、マンドリカルドはわかりやすく「そんな感じでいいんすね」という顔をした。仕方なく、ラウルから話を振ってやる。これもホスト国の務めだ。


「マンドリカルドは、ロタリンギアどころかウェスティアに来ること自体初めてだよな。建築様式とか全然違うだろ」

「あ、えと、そうっすね……」


話が広がらない。しかも、マンドリカルドは自分で言っておきながら「話が広がらぬぇー返答してんなよ俺!」というような自己嫌悪に震えている。これはこれで面白いな、と内心ラウルは笑いたいのを我慢した。


「アヴァール人はなんの肉食べるんだ?馬?」

「えっ、あぁ、馬だったり、山羊だったりっすね。猪のときもあるっす。こっち…ベッサラビアに来てからは、ブドウの葉で豚肉とか包んで食ったり、祝いの席なんかだと小麦粉練って作った皮で肉とチーズ包んだヤツ食ったりするっすね」


ようやく、マンドリカルドは流暢に答えてくれた。やはり食事の話というのは良いものだ。
それにしても、記憶の中には日本人だった頃のものもあるため、マンドリカルドの話を聞いていると腹が減ってくる。
特に、餃子のような小麦粉の皮で肉を包む料理は東欧から中央アジア、中国に至るためユーラシア中央部ではメジャーだ。
ベッサラビア、現在のモルドバではチーズを入れたりかけたりするほか、トルコではヨーグルトをかけることもあり、ジョージアでは香辛料を中に入れるのが特徴だ。これらの料理は郷土料理としては伝わり、現代でこそ日常的に食べられるが、小麦が庶民のものではなかった時代には祝いの席だけのものだった。


「…ってすんません、ウェスティアやポルスカの王が食うような料理じゃねぇっすよね」


マンドリカルドは野蛮な話をしてしまったかと恐縮するが、アーサーは苦笑する。


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