chapter. 10−5
食事会、および公式の会談を終えて翌日、王だけの会談という名目で、使用人をすべて人払いして密室に4人で引きこもる。
これはフェイントであり、実際には、ラウルたちはこっそりレッツェ城に転移していた。ルキウスを交えた非公式の会談を行うためだ。
無骨なレッツェ城にも設けられている貴賓室に転移を完了すると、予定通り双子が出迎える。ここも人払いが済んでおり、テニスコートほどの広さの部屋はがらんとしている。
そこに、出迎えって恭しく一礼したカストロとポルクスの背後から、ぬっと大柄な男が姿を現す。
「待ちくたびれたぞラウル。ケイローンがいなければ城下町に出て酒を浴びていた」
「え、ケイローンには申し訳ないことしたな…」
「俺にだろうが」
ルキウスは口元を引くつかせるが、それを見てカストロは鼻で笑う。
「先生に一度も口で勝てなかったな」
「ラウルにも口で勝てぬ貴様が言うか」
カストロを睨み付けつつ、ルキウスはすぐこちらに向き直り、さすがに他の王たちに意識を向ける。
「…それで?どれが噂の騎士王とやらだ?」
「……ルキウス、いくら非公式の場とは言え初対面でそれは、」
「我ら皇帝の一族からすれば、他の王族など下位の家。敬意を払う必要などなかろう」
悪びれないルキウスだったが、一方でマンドリカルドはドン引きしており、カドックも呆れたようにしていた。怒りというより、分かりやすく傲岸不遜なルキウスにすぐどういう人物か理解してのことだろう。
アーサーの方はというと、やや不快そうにしながら前に出た。さりげなく、ラウルを背後に隠そうとしている。
「私がブリタニア王だ、新ラバルム帝国の皇帝にして東ラバルム帝国の元僭称皇帝よ」
「それが聖剣か、面白い。この帝剣とどちらが強いか、もちろん試す度胸はあるな?」
どうやらルキウスは、剣の名手であるアーサーとの対決がしたいらしい。ニヤリと獰猛に笑うのを見て、アーサーはいよいよ不快そうな面持ちを隠さなくなった。
「あなたは…まるで獣だ。人の理性を持たない獣。ラウルの同盟相手に相応しいとは思えないな」
「辺境の島国の王がよく吠える。大陸の皇帝家である我ら以上の同盟などなかろうよ。そも、ラウルに助けられてきただけのお前に何ができる。ロタリンギアがいなければ満足に国家運営もできないような田舎国家が」
両者の睨み合いは極めて険悪なものとなりつつあり、アーサーもルキウスも言葉を選ばない。ルキウスの突いたところはブリタニアにとって痛い腹であり、アーサーは眉を寄せる。
ラウルはため息をつき、さすがに止めに入ることにした。
「…はぁ、そこまでだルキウス、アーサー。確かにこれはロタリンギアと各国の同盟であり、新ラバルム帝国とブリタニアの直接の同盟関係ではないとはいえ、2国ともガリアとゲルマニアの両方が潜在敵国だろ。喧嘩しながら勝てる相手じゃないぞ」
そう言って、早く会談に移ろうと中央のテーブルに向かおうとしたが、ルキウスはラウルの肩を組んで抱き寄せる。
「お前が俺との婚姻を受諾すればもっと話は早いんだがなァ」
「…なに?」
そして、また別の爆弾を投げてきた。頭を抱えたくなったラウルをよそに、アーサーは場が凍えるような冷えた声を出す。
今度こそ、マンドリカルドはあわあわと口を手で覆い、カドックはげんなりとする。先ほどより悪化するというのが一目で分かる状況だ。
「その話は今関係ないだろ。つか、先着順で言えばガリア王シャルルのが先だったし、やるならシャルルも交えてやってくれ」
「ガリア王まで?ちょ、君は何人引っ掛けて…」
「人聞き悪い言い方すんな」
ついに、ラウルはどす、とアーサーに肘うちをかます。たいして効いていないだろうが、ようやくくだらない雑談は終わりだと切り替えることはできた。