chapter. 10−6
なんとか始まった真の同盟国会議の議題は、ロタリンギア有事の際に各国でどのような行動をとるかというのを決めておくことだった。
新ラバルムとロタリンギアとの同盟が公表されればすぐ、ゲルマニアは軍事力での威圧をかけてくる。それがそのまま戦争に発展する可能性があった。
もちろん、それを避けるために再び三王会談が開かれることになるだろうが、国王の一存ですべてが決まるからこそ、人間一人の考え次第で戦争になってしまう恐れがあるし、それが当然の世界だ。
「ということで、これがロタリンギアの地図だ。地形を含めて俺の予想を最初に話すけど、ゲルマニアは恐らく、レーヌスラント諸侯と合流した上でロヴェン方面を目指す主力部隊のほかに、ノヴィオマグスとストフェーネの占領を目指す部隊、モーセラ川を遡上してレッツェを目指す部隊、そしてアルザティアを占領する部隊も動員する可能性がある」
ラウルの言葉を聞いて、ルキウスは無表情で地図を見下ろし同意する。
「ゲルマニア最大の長所は数だ。複数の目標を並行して進め、どれか一つでも身を結べば利益がある、という作戦だろうな」
「ストフェーネはそんなに重要な都市なんすか?」
マンドリカルドの質問に、ラウルは地図の街道を示して答える。
「東フリジア辺境伯領への街道は、このストフェーネを通るものだけなんだ。これより西のイスラ湾沿岸は干潟になってて洪水が多いからまともに通れないし、東は土地が貧しすぎて都市がなく経由地がない。だから、ちゃんと補給ができる街道を通せるのはストフェーネだけだった。ここを占領されると、東フリジア辺境伯領は完全に孤立する」
元の世界ではオランダのズトフェンにあたる都市だ。現代でも交通の要衝ではあるものの、さすがに今は国土の大部分を縦横無尽に道路が通っている。ただ、今の時代の環境では、東フリジアまで続く南北の街道はストフェーネを通るしかないのである。
聞いていたカドックは、ため息をつくのを我慢しつつ、ゲルマニア有利な状況を再確認した。
「ゲルマニアの現実的な落としどころは、レーヌスラント諸侯との結びつきをより軍事的なものにしてあわよくば常駐、レーヌス川中流域を確保しつつ、ストラーズブルスを占領してアルザティア伯領も併合、ってところか。ノヴィオマグス占領によるモース川下流域とレーヌス川下流域の確保や下ロタリンギア公領の併合は、少なくとも次の戦争ってことになるな」
「ポルスカ大公に同意するよ。私も、ゲルマニアの目標はレーヌスラント諸侯4伯領とアルザティア伯領だろうとみている。ふむ、ラウル、コンフルエンティアに侵攻することはないのかい?」
アーサーは一応の確認だろう、東部の最も重要な交通の要衝であるコンフルエンティアの防衛について尋ねた。地形を見れば可能性が低いことは分かっているだろうが、確認として聞いてくれている。
「あぁ、コンフルエンティアの南東、ロタリンギアとゲルマニアの国境があるあたりのレーヌス川の川幅はめちゃくちゃ狭くて、レーヌス川最大の難所とされてる。通称、ルーラベルク。精霊の潜む岩とも呼ばれる場所だ。小型商船ならともかく軍ではここを超えることは不可能だし、見ての通り、コンフルエンティアはレーヌス山地、フンデスルカ山地、エイフィラ山地に囲まれてるからな」
レーヌス川中流域におけるロタリンギアとゲルマニアの国境にもなっているのが、ルーラベルクと呼ばれる岩山がそびえる狭い川幅の難所だ。現代ドイツにおいて、ローレライと呼ばれる場所である。
川幅が狭く流れが速いうえに、川底に見えない岩が多くあることから、事故が絶えない場所なのだ。ここを軍をのせた船が通ることは不可能である。
陸路はどうかというと、モーセラ川が南西からレーヌス川に合流するコンフルエンティア市において、レーヌス川を挟んで東側一体はレーヌス山地という広大な山地が広がっている。レーヌス山地は、レーヌス川、ルーラ川、モイン川に囲まれた非常に広く低めの山地であり、ラウルの元居た世界ではライン山塊と呼ばれる複数の山地の総称である。ライン川、ルール川、マイン川に囲まれた、標高500メートル程度の丘陵地帯が続く場所だ。