chapter. 10−7
そしてコンフルエンティアの南には、モーセラ川とレーヌス川に囲まれた一帯にフンデスルカ山地というこれも300から500メートル程度の低い山地が広がっている。ドイツではフンスリュック山地と呼ぶ。
フンデスルカ山地のさらに南からアルム山脈にかけて南北に延びるのがウォサゴ山脈であり、これは海抜1000メートルの山岳地帯である。ウォサゴ山脈は南北に長いアルザティア伯領の西の国境に沿って続いており、アルザティア伯領はウォサゴ山脈とレーヌス川に挟まれた平野部を領土としている。
一方、コンフルエンティアの北にはエイフィラ山地があり、エイフィラ伯領を中心に、モーセラ川とレーヌス川、アルドゥース高地に囲まれた地域である。
アルドゥースは、エイフィラ山地とモース川に挟まれた一帯であり、300メートル程度の丘陵が広がる高地だ。その大半が北アルドゥース伯領と南アルドゥース伯領となっている。
このように、コンフルエンティアを中心にロタリンギア南部のゲルマニア国境は山地に覆われており、実は陸路での侵攻は容易ではない。第一次世界大戦と第二次世界大戦でドイツがベルギーからフランスを目指したのも、これらの複数の山々がそびえていたからだ。
「だから、ゲルマニアがここレッツェを落とそうとすると、コロニア方面からレーヌス川を遡上し、コンフルエンティアでモーセラ川に入って遡上してから、レンディンガ市でレッツェ=ロンカストル伯領に入るしかない。この経路を使って運べる軍事力じゃ、この街は落とせない」
「だろうな。ではガリアはどうだ?ガリアが示し合わせて進軍すれば、レッツェまで阻むものは何もあるまい」
ルキウスはニヤリとして聞いてきた。かつて、ガリアがそうしないだろうとラウルは伝えたが、その理由を聞いてこの男は爆笑したものだ。
「…少なくともシャルルはガリア王国軍を原ロタリンギア平野に進軍させることはない。いろいろ理由はあるけど、まぁ、一番は経済的メリットがゼロだからだな。元が取れない」
「ほう?お前を盗みにレッツェまで来ることはないと」
「……俺の魔法、忘れたか?」
呆れて言えば、ルキウスはふざけるのもそこまでにして、ラウルの言葉に同意した。
「ま、そうだろうな。ガリアの最も裕福な土地であった北エトルリアの平野は俺の元にある。そしてヒスパニア戦役の国費負担は、いまだ回収できていない」
「あー…そういや、ヒスパニアは今年猛暑なんすよね。かなり冬殻もやられてるとか」
マンドリカルドは田舎国家であるものの、最近は貿易量の増大によって新しい話題も理解できるようになったらしい。
その言葉通り、シャルルが遠征によって獲得したヒスパニア半島の東部と北部は、ここ1年の気象条件が良くなく、収穫量が例年を下回っている。税収はあまり見込めず、莫大な戦費に合うリターンが得られていない。
そのうえロタリンギアに攻め込んだとしても、連合軍との戦闘は骨が折れるであろうことから、得られるものの割にかかった費用がえげつないことになる。
しかも、税収を増大させていたロンバルディアとサウォギアが新ラバルムの配下になってしまったことで税収はさらに落ち込んでいる。もともとロタリンギアから割譲されてそれほど経っていないとはいえ、ガリアの財政はすでに相当エトルリアに依存していた。
「ただ、カンパニア公が単独で動くことはあり得る。マセリアエ、セダヌム、ヴィルドゥヌム、バッルムには防衛部隊を配置した方がよさそうだな。できればヘネガウ伯領内にも配備するか…」
ガリア北東部、ロタリンギアと国境を接する豊かな平野部にあるのがカンパニア公領だ。ガリアの中でも保守的な有力貴族の治める地であり、ガリア北東部で唯一、王領地にならず独立を維持している。ガリア王が動かないならと、勝手にゲルマニアの動きに呼応して動く可能性があった。特に、取引所同盟による国際的な貿易体制の変化によって、カンパニア公領の羊毛やワインは急速に売れなくなってきているようだ。カンパニア貨の価値も下落している。