chapter. 10−8


ある程度情報がまとまったところで、カドックは本題に入ろうと手を叩く。


「そろそろ本題だ。実際に僕たちがどう動くか。どこまでラウルの魔法で転移させ、何を目標にし、勝利条件と敗北条件をどうするのか」

「ほう、その若さで聡いものだな。戦争の経験はなかろうに。権力争いが熾烈なポルスカの大公だけある」

「…そりゃどうも」


ルキウスは意外と、こちらの事情に明るいらしい。複雑な政治力学が働くポルスカ=ルテニア連合王国で大公をやっているだけある、という言葉はまさにその通りで、カドックの本質を見極める力をルキウスは褒めている。かなり上から目線だが。

とりあえず、カドックの切り出してくれたことにはラウルが応じるべきだ。


「俺の、ロタリンギアの勝利条件は変わらない。戦争を避ける。たとえ軍事行動を起こされても、ろくに戦う前にゲルマニアを撤退させる。敗北条件は、心意気としては都市での交戦そのもの、実務的には領土の喪失。鍵になるのは、コロニア伯たちレーヌスラント諸侯にゲルマニア側に立つことをためらわせられるかどうかだ」

「なるほど、前提となるレーヌスラント諸侯との合流を阻止することに重点を置くんだね。それなら話は早い。我らブリタニアはレーヌス川を遡上してエスネーデに展開しよう」

「俺もそれがいいと思うっす。ゲルマニアの主力は必ずルーラ川を下ってくる。エスネーデ東方の国境で盛大に迎撃して、コテンパンにする様子を諸侯に見せつけた方がいいっすね」


戦争慣れしているブリタニア、騎馬民族であるアヴァールはこういうときさすがだ。素早い提案になるほど、とラウルも納得する。

エスネーデ、ドイツではエッセンにあたる都市だ。ルール川に相当するルーラ川が、ゲルマニア領内からレーヌスに向かって東から西に流れてきて、ロタリンギアとの国境を越えてすぐのところに位置する。ルーラ川沿いの国境都市であり、レーヌスラント諸侯のひとつ、ディウス伯領にある。
ディウス伯領の首都ディウスはデュイスブルクにあたる街で、ルーラ川がレーヌス川に合流するところにある大都市だ。レーヌス川を南に遡上するとコロニアがある。


「ちなみに、アーサーはどうするんだ?」

「もちろん出陣するとも。私がエスネーデにおいて防衛を担当しよう。そうだね、あとはビールタナとストフェーネにも、円卓の騎士からそれぞれ2名、ガウェインとランスロットを配置する。これでレーヌスラント戦線はロタリンギア軍を入れて十分だと思うけれど」

「それなら俺も戦ってやろう。この男の聖剣より俺の帝剣のほうが優れていると証明せねばならん。新ラバルム軍より俺一人のほうが戦力になるだろうしな」


すると、ルキウスまで出てきてくれることになった。ラウルのためでもあるだろうが、アーサーと張り合いたいという意図もある様子だ。直接交戦しないといいのだが、と不安になるも、アーサーは取り合っていないため、恐らく大丈夫だろう。


「アーサーとルキウスの主力部隊がエスネーデ、ガウェインはストフェーネ、ランスロットはビールタナ。あとは、下ロタリンギア軍の主力部隊はヘネガウからマセリアエ、セダヌムにかけての国境地帯に入ってもらうか」


ビールタナはドイツのビルテンのことで、ルーラ川の北でルピア川がルーラ川に並行してレーヌス川に合流するところにある。マセリアエはフランスのシャルルヴィル=メジエールのことであり、セダヌムの北、ガリアとの国境に位置する。


「コンフルエンティアはモレーの自警団が軍並みだから大丈夫だとして、バッルムとヴィルドゥヌムはカンパニアの兵力なら既存のロタリンギア軍で勝てる。ケイローンにも現地に入ってもらうか。残るはアルザティア伯領だな」


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