chapter. 10−9


最もゲルマニアにとって侵入しやすいのが、レーヌス川に沿って平野が続くアルザティア伯領だ。ロタリンギアからはウォサゴ山脈によって軍を派遣しづらいが、ゲルマニアはドゥアラッハやベルクハイムといった主要都市が同じ平野に位置している。
ドゥアラッハはカールスルーエ、ベルクハイムはハイデルベルクのことだ。

アルザティア伯領の首都はストラーズブルス、ストラスブールにあたる都市のことであり、レーヌス川沿いに位置する。アルザティア伯領の東はレーヌス川がロタリンギアとゲルマニアとの国境になっており、ストラーズブルスは川を挟んで対岸がすぐゲルマニアという位置なのだ。
すなわち、川を渡ってすぐ市街戦になってしまう。

難しいが、だからこそ、ラウルはここを任せられるのがただ一人だと確信する。


「コンスタンティノスに死守してもらう。ミクラガルズよりは小さい分、守りやすいだろ」

「同じような状況の都市を防衛させるとはなかなか酷なことをするなァ?」

「あいつはこれくらい、なんともない。ミクラガルズの代わりに守るんじゃなく…俺が大事にしているものを守ろうとしてくれるからな」


ラウルの言葉を聞いて、ルキウスは少しだけつまらなさそうにした。仲が悪いわけではない様子だが、いったいどうしたのだろうか。
まぁいいか、とルキウスは放っておいて、ラウルはカドックとマンドリカルドに視線を向ける。


「カドックとマンドリカルドには、国境での軍の動員をお願いしたい。ゲルマニアに対して、挟撃を現実のものとして認識させる」


二人は国を離れるわけにはいかないため、ゲルマニアと東西で挟撃する圧力をかけてもらうことにした。
そういう役回りになることは二人とも理解しているようで、特に驚きもなくうなずく。


「僕はズデティ山地を挟むようにして、ブドルギスとクラクスに軍を集結させる。街道を伝って、いざというときにはカスルギスとヴィエンナを占領するさ。もしかしたら、アヴァール軍とアクィンクムで合流できるかもな」

「そっすね、俺はイステル川のオエスクスに動員するんで、川を遡上しつつこっそり高モエシアのナイッススからも陸路で北上させるっす。ウィミナキウムで合流させてから、イステル川沿いにアクィンクム、ヴィエンナまで突っ込みますよ」




ルーマニアとモルドバ・ウクライナとを隔てるカルパティア山脈と、チェコとドイツ・ポーランドを隔てるズデーテン山地は、細い平野を挟んで隣り合っている。この平野を、クラクフからウィーン・ブダペスト方面に街道が貫いている。
この世界の場合、ズデーテンをズデティ山地といい、カルパティア山脈をカルプ山地と呼ぶが、その間の街道をカドックはクラクスから進軍させる予定だ。その先には、ドナウ川のことであるイステル川があり、街道を伝ってウィーンにあたるヴィエンナやプラハにあたるカスルギス、ブダペストにあたるアクィンクムに通じる。
また、ズデティ山地の西側からもカスルギス方面へ抜ける街道を使うらしい。

マンドリカルドは、同じくイステル川の下流にあるオエスクス、ブルガリアのギゲンにあたる大都市に軍を集結させてから、川を遡上してアクィンクムやヴィエンナを目指す。また、隣国であり同盟国である高モエシア王国の首都ナイッスス、セルビアでニーシに相当する都市から陸路でも北上し、途中のウィミナキウム、セルビアのコストラツでイステル川の部隊と合流する。

さすがにそこまでゲルマニア王国内に踏み込ませるつもりはないが、そのレベルの行動を前提とする集合だ、ゲルマニアもとてつもないことになると理解するだろう。

ルシタニアとバエティアも旧ヒスパニアにあたるガリア領への侵攻を可能にする軍の招集を予定しており、シャルルも焦ることになる。カンパニア公をなんとか諫めてくれれば問題ない。


「ありがとな。一番は、エスネーデでのアーサーとルキウスの強さにビビったレーヌスラント諸侯がゲルマニア側での参戦を拒否して、しかもアヴァールとポルスカまで準備をしていると知ったゲルマニアが撤退する、っていうシナリオだ。死んでいい人間なんかいない、できれば、戦死者の出ないような結末にしたい」


ラウルの意思は変わらない。戦争という絶対的な悪をなんとしてでも避けること。時代が時代だ、それができるかは分からないが、少なくとも今こうしてここにいる者たちは、そうしたラウルの意思を理解してくれていた。


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