chapter. 10−10
1277年8月、ロタリンギア王国は新ラバルム帝国との同盟関係をついに公表した。
これにより、ロタリンギア王国を中心に据えて、ブリタニア王国、ルシタニア王国、バエティア王国、新ラバルム帝国、ポルスカ=ルテニア連合王国、アヴァール王国、イリュリア王国、高モエシア王国という、ガリアとゲルマニアをぐるりと取り囲む巨大な同盟が成立する。
これら同盟国の主要都市で構成される取引所連盟も本格的に稼働し始めており、預金融通や為替交換がやりやすい同盟国の商人が互いに優先されるようになり、ゲルマニアやガリアの商人は貿易がどんどんやりづらくなっている。
そして予想通り、ついに業を煮やしたゲルマニア王国は、ロタリンギア王国に対して1年ぶり2回目となる三王会談の開催を要請。ゲルマニア王ルートヴィッヒ6世はまだドームヒューゲルを離れることができない容体だが、前回同様、王太子であるシグルドが派遣されることになっている。ジークフリートが欠席なのは、もはや会談においてゲルマニアが伝えることは決まっているからだろう。
ガリアも会談には賛成しており、シャルルが直接やってくる。ただし、保守的な貴族であるカンパニア公とアンデシア公の代表も旅団には含まれており、会談の結果を即座に両公が聞くことになる。
極めて緊張感のある会談となることはメティスの市民も察している様子であり、前回のような歓待ムードではなく、これから何が起こるのかという不安に満ちた空気だった。
そんな中、メティス宮殿に前回通りやってきたシグルドとシャルルを出迎え、食事会もそこそこに、その日中に会談が始められることになった。
「ちょうど1年ぶりだな、スウァビア大公、ガリア王」
前と同じ鏡の間にて、大理石のテーブルに二人の王と王太子がついている。ラウルの向かって左側にシャルル、右側にシグルドが座っており、カストロとポルクスは大扉に控えている。
執事長がワインを注ぎ、離れた壁際に控えたところでラウルが切り出せば、王様モードのシャルルは鷹揚に頷いた。
「そうだな。本来は毎年定期的に行っても良いものだ。かつてはそうだったと聞く。我らは兄弟国だからな」
シャルルの言葉に対して、シグルドはため息をついて単刀直入に本題に切り込む。
「その兄弟国からいらぬ緊張を与えられているのがゲルマニアの立場だ。ラウル、お前も無駄な挨拶は好まないだろう」
「それもそうだな。で?ロタリンギア王国の同盟関係に何か文句でも?」
「…あるに決まっている」
さすがのシグルドも、今回のことはルートヴィッヒと同じく腹を立てているらしい。いや、そういった感情的なことというよりは、計画通りにいかないことへの苛立ちか。
「ロタリンギアを分割し、ゲルマニアとガリアで新ラバルム帝国なる野蛮な国を叩き潰し、西ラバルム帝国の名誉を守る。それが、兄弟国である我々にとって最も効率的かつ合理的な政策だと考える。ゲルマニア王のお考えであり、当方の考えとも一致する」
「ロタリンギアは西ラバルム皇帝の直系。すなわち俺は皇帝の血筋だ、言うまでもないことだけど。そんな俺にとっての兄弟国は、むしろ東ラバルム帝国の皇帝の血筋の国だろ」
「…ガリア王。貴殿はロタリンギアの勝手なふるまいをどうお考えか」
平行線になるとすぐに理解したシグルドは、シャルルに意見を尋ねる。シャルルは紅の瞳を僅かに光らせてから、こちらをじっと見つめる。分かっていてもたじろぎそうになる眼光だ。
「…俺としては、正直どうとも。ロタリンギアとその同盟国との間で戦争をする理由も利益もないからな。ロンバルディアとの貿易が止まっていることも痛手だ、むしろロタリンギアの取引所連盟にガリアの都市も参加させ、王権が発行する通貨とロタリンギア通貨を連動させることで貨幣高権を王室に集約した方が望ましい」
「そんな弱腰な態度が国内で罷り通るのか?今回も業を煮やしてカンパニアとアンデシアの代表が同行しているだろう」
「なんであれそれは俺の問題だ。ロタリンギアやゲルマニアは関係がない話。それに、新ラバルム帝国がガリアに攻め込んだ場合、同盟は無効となりロタリンギアはゲルマニアとともに新ラバルム帝国に反撃すると聞いている。ならば国防上も問題はない」
なんと、シャルルは今回の同盟に対して中立の立場を示した。シグルドが言っているように、それは国内の有力貴族を敵に回す危険な選択でもある。それでもなお、シャルルはラウルの意思を尊重してくれた。
つい驚いてシャルルを見つめてしまうと、シャルルはふっと微笑んだ。
「…驚くことではないだろう?俺はロタリンギアの趨勢よりも、大事にしたいことがある」
「シャルル…」