chapter. 11−1


三王会談が決裂したという噂は瞬く間にロタリンギアからウェスティアに広がり、各地でついにこの時が来たと都市住民の間でもちきりになった。
国境に近い街や街道沿いの街では、襲撃に備えて城壁の強化や自衛組織の再編、物資の手配などが急ピッチで進められていき、商人たちは都市住民や国家に対して武器や資材を売りさばくために大移動を行う。

宣戦布告というものが始まるのは、実際の欧州では概ね14世紀から15世紀頃と言われており、それまでの中世の戦争は急襲によって始まるのが普通だった。ただ、動きが遅く、大規模な軍団が移動するため、基本的には事前に情報を察知することから、攻撃を受ける側もわりと準備をして迎撃することが多い。

ただ、最初に襲われる都市はたまったものではない。戦争状態に突入すれば、自国軍が配備されることもあるが、初期段階では防衛部隊が存在しないため、都市は襲われるに任せるほかなかったのだ。中世都市が原則として城壁に囲まれているのは、しょっちゅう発生する戦争や盗賊の襲撃から常に市街地を守るためだった。

中世の戦争における都市の攻撃は、相手国の物流や資源流通に被害を与えて先制攻撃とする目的のほか、その後の進軍のための補給とするために行われる。むしろ補給目的が基本となるような戦争も多かった。
そのため、都市を舞台に交戦することはあまりなく、軍と軍との衝突は都市から離れた何もない土地で行われる。

ロタリンギア王国においては、この時に備え続けてきたラウルの政策によって、国境の主要都市すべてが星形要塞として整備を終えている。三王会談時点で軍の配備も始めていた。
それでも、続々と入ってくるゲルマニアとガリアの進軍情報に、ラウルはため息を我慢できなかった。


「はぁ…くそ、本当に小競り合いで済ませるつもりか…?」


レッツェ城の小ホールを上級会議の場としているが、ラウルは地図に足されていく数字を見て辟易とする。
それを見て、コンスタンティノスは表情を難しくした。


「ゲルマニアはロタリンギア方面だけで4万人は動員するつもりだろう。ロタリンギアの総動員数と同じか、若干向こうが多い」

「4倍以上の人口抱えてる国だしな。まぁ、ポルスカも4万、ブリタニアも2万動員してくれてる。総数では1.5倍前後こちらの方が多いあたりで落ち着くだろうな」


ロタリンギア王国の人口は390万人。軍の動員数は4万人であり、100人に1人が兵士となっている状況だ。夏の中耕に忙しい時期だというのに、これだけの数を集めるのは非常に大変だった。
常備軍として常に訓練しているのは3万人で、1万人は補給部隊・施設部隊のような非戦闘員といっていい。これはこの戦争だけで雇用する兵士であり、多くは農民だ。

対してゲルマニアは総人口1835万人に及ぶ大国であり、同じ4万人でもごく一部だ。だが、実際にロタリンギアとの戦争で動かせるのはそれくらいがマックスだ。人口が多い分、国土面積も広大であるため、移動が間に合わないのだ。
今回、ゲルマニアが派遣する軍は、ロタリンギアと国境を接するエムスファリア公国、ヘッシア公国、フランコニア大公国、スウァビア大公国の軍であり、海上輸送のためにトレヴァ公国も参戦する。

一方、ケイローンは西部戦線を見て表情を僅かに緩める。


「ガリアは予想通り、保守強硬派の公国2つだけがゲルマニアに呼応して参戦する形ですね。国軍はシャルル王が出陣を拒否しており、配下の勇士たちも誰一人参戦には応じない様子。カンパニア公国とアンデシア公国は足しても1万と少しでしょうから、西方はあまり心配要りませんね」

「突撃されるとすぐにメティスに到達するから油断はできないけどな。カンパニアはあの吶喊王マルテルの出身地でもある。騎馬兵を先頭に置いて突撃するバルジ陣形は奴らの得意技だ」

「上ロタリンギア軍、および下ロタリンギア軍の西方師団はそれに備えて機動力に重きを置いて訓練してきました。大丈夫、ヘネガウは私が、オルナ川はモレー殿が守りきります」

「わ、私めにできるかは保証できかねますが…ええ、保証はできずとも、やります。あなたを守るためですから」


いきなり話を振られたモレーはあわあわとするが、しかし、その瞳は強い意志を滲ませる。今回、コンフルエンティア伯領はモレーが鍛えた自衛団だけで良いと判断し、モレーには上ロタリンギア軍の西方師団を任せている。


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