chapter. 11−2


今回、ゲルマニアが派兵準備をして軍を組織し始めた時点で、商人ネットワークを通じて情報をほぼリアルタイムで獲得したロタリンギア同盟軍は、2方面6戦線に作戦を分割している。

方面はロタリンギア方面とゲルマニア東部方面の2つであり、このうちロタリンギア方面はゲルマニア軍の侵攻に対して後手に回る防衛作戦となる。当然だ、こちらから仕掛けるわけにはいかない。
一方、ゲルマニア東部方面はロタリンギアに対する進軍を待って行われる攻撃作戦だ。同盟国であるポルスカ=ルテニア連合王国とアヴァール王国、そしてイリュリア王国と高モエシア王国が、ロタリンギア攻撃の報復として一斉にゲルマニア領内に進軍する。これにより、ゲルマニアは2方面作戦を強いられることになる。



ロタリンギア方面作戦では、4つの戦線がゲルマニアの軍隊編成に合わせて構築される。

ラウルはロタリンギア中西部の国境に、数字を書き込む。配置する兵士の最終的な数だ。一気に配置することはできないため、だんだん増やしていくことになる。


「第一戦線・カンパニア国境戦線は合計1万3000を配置する。ヘネガウ伯領には、ケイローン率いる下ロタリンギア軍8000人。うち5000は、ギュイジアから北西に進軍するカンパニア軍をカマラクス南東の街道で迎撃する。ケイローンはこっちで指揮してくれ。ほかの3000はマセリアエで待機、カンパニア軍がギュイジアより北東に進軍してくるのを、アルドゥース高地西端で迎撃する」

「承知いたしました。カマラクス周辺は羊の生産地、斥候を多く出して機動的に迎撃します。コンスタンティノス公、下ロタリンギア軍の編成に際しては考慮ください」

「了解だ」


ケイローンが言わずともコンスタンティノスはそうしただろうが、あえて口にして共有することは常に重要だ。

ギュイジアは現代フランスのギーズにあたる都市であり、セークアナ川にルテティア北部で合流するイサーラ川、フランスでオワーズ川にあたる川の上流に位置する。この街に5000ほどのカンパニア軍が配置されていることはモレー配下の商人兼諜報部隊から情報を得ていた。
ギュイジアより北に街道を進むとロタリンギア王国ヘネガウ伯領に入り、その先にはスヘルト川の大都市カマラクスに至る。カマラクスはフランスのカンブレのことだ。
ヘネガウ伯領は羊を主に畜産が盛んな地域であり、ロタリンギア最大の羊毛の産地である。家畜への被害を減らすためには、素早く移動して迎撃することが必要になる。

ギュイジアから北東に進軍するカンパニア軍は、恐らくモース川を渡河することより川を封鎖するための部隊だ。上ロタリンギアと下ロタリンギアを結ぶ3つの主要なルートのうちの1つ、モース川を閉鎖することでこちらの経済的な力を削ぐつもりだろう。
なお、残る2つはメティス・レッツェ・アルルナ・ルーティカを通る中央街道と、モーセラ川とレーヌス川による河川路である。

モース川を封鎖するには地形が閉じている必要があるため、アルドゥース高地の西端部、丘陵地帯を川が貫く場所にある南アルドゥース伯領のマセリアエ市やリヴィウニオ市がターゲットになる。その南のセダヌム市は重要なモーセラ川と陸路の結節点となる河川港であり、ここも防衛する必要がある。
マセリアエはシャルルヴィル=メジエール、リヴィウニオはルヴァンにあたる。


「レーミには3000が配置されている。モレーはバッルム北部の街道沿いに5000の上ロタリンギア軍を率いて展開、オルナ川に沿ってやってくる敵軍を川沿いの平野で撃破する」

「ヴィルドゥヌムの峠を越えればそこは聖なる原ロタリンギア平野…このモレー、必ずや死守します。文字通り命に代えても」

「命は代えるなよ。俺にはお前が必要だし、モレーは大切だ。何かあれば撤退しろ」


ラウルがじっと見つめて言えば、背の高いモレーはその白い肌に赤みを見せつつ、「は、はい、承知いたしました」と答えた。あがり症だったか、と内心で首を傾げる。

とはいえモレーの言う通り、このオルナ川・バッルムの戦いは重要なものになる。
オルナ川はオルネン川のことで、マルヌ川にあたるマトロナ川に合流し、マトロナ川はルテティア南部でセークアナに合流する。
カンパニア軍は、イサーラ川の支流であるヴィドゥラ川沿いの都市ランスに相当するレーミ市から、3000の部隊をマトロナ川に沿う街道を伝って国境に移動させ、途中からオルナ川に沿ってバッルム、フランスのバール=ル=ドュクにあたる街を目指すだろう。
バッルムは北に向かってヴェルダンにあたるヴィルドゥヌムに続く街道があり、モース川の大都市ヴィルドゥヌムはメティスに直通する街道がある。ヴィルドゥヌムは、モース川に沿うように南北に延びる標高300メートルほどの低山山塊が途切れる峠道を背後に抱え、この峠道を通る街道は、ルテティアとメティス、ドームヒューゲルをつなぐ大街道の一部でもある。
ガリア方面からメティスに至る街道はこのヴィルドゥヌムの峠に集約され、ここから山を越えて原ロタリンギア平野に至る。そして、カンパニア軍の進軍は地形の制約上、バッルムを経由してヴィルドゥヌムに向かうことになる。このため、モレーにはこのヴィルドゥヌムに続く街道を抑えてもらうのだ。


127/174
prev next
back
表紙へ戻る