chapter. 11−3
カンパニア国境戦線の戦力を確認したところへ、ちょうどよいタイミングにてロビンがホールに入ってきた。部屋に入るなり魔法を解いて姿を現し、ラウルの隣にやってきて地図を示す。
「戻りましたよっと。俺の本業とはいえ人使いが荒いんですから」
そうは言いつつ、ロビンはやはりどこか生き生きとしている。車で2時間半かかる距離を早馬で駆けてきたはずだが、息が上がっていないのはさすがである。
ロビンには、第二戦線となるアルザティア戦線で動員されているゲルマニア軍の様子を探ってもらっていた。
「見たところ、アルザティア戦線に投入するのは2万前後ってとこっすね。ゲルマニアはロタリンギア方面に動員する戦力の実に半分を、まとめてアルザティアに投下するみたいですよ。しかも、当然だがこの戦線の将軍はフランコニア大公とスウァビア大公だ。練度も士気も高い一流です」
「なるほどな…あらかじめ、シグルドとはアルザティアの伯位を使ってゲルマニアとの講和条約の着地点にするつもりだったから、きっちり戦果を挙げたと示す意図があるんだろ」
「…本当に信じられるんです?口約束っしょ?スウァビア大公が裏切って本当にアルザティアを占領しないとも限らねぇんじゃないですかねぇ」
「ルートヴィッヒ6世ならやり得る。でもシグルドやジークフリートは、大公であり戦士だからな。正々堂々とした戦いをするだろ。問題は、あいつらより下位の将兵が勝手に動いて戦果を急ぎ、ロタリンギア領内で暴れる可能性がある方だ。この数だとかなりの伯持ちが来るぞ」
ゲルマニアレベルの大国における軍の動員は、伯単位で招集され、その伯ごとの軍団をまとめて公単位で師団を形成する。
この規模の戦争ともなれば、伯自身が大隊長として戦場にやってくるはずだ。フランコニア大公の臣下にある伯は13、スウァビア大公の下には7存在する。すべて来るとすれば、20もの軍団がアルザティアに押し寄せてくる。
「で?ロビンが見てきた最新の動員状況はどうだった?」
「マンネンハイムからベルクハイムにかけて、ネカル川沿いにすでに1万。マゴンティアに6000前後だな。ヘリブルンにも5000前後ってとこだ」
ラウルが聞いた数を地図に書き込むと、コンスタンティノスは顎に手を当てて考える。
「ふむ…恐らく、マゴンティアの6000は段階的にサラブルッカ街道に派兵するだろう。ドームヒューゲルとメティスの間のいつも使っている街道だ、勝手知ったる道、なんならつい先日の会談で使ったばかりの街道だからね。メティスに向かうつもりだ。マンネンハイムの1万のうち、当初作戦で動けるのは半分程度だろうから、こちらはザブレナ峠かな」
「なるほど…じゃあヘリブルンの5000は渡河せずにストラーズブルスまで来て、そこから渡河する形か」
「恐らくは」
現代ドイツで言えば、マインツに6000、マンハイムに1万、ハイルブロンに5000が集結しているということだ。
ロタリンギア王国サロウェラント伯領の首都サラブルッカ市は、フンデスルカ山地とウォサゴ山脈が接する切れ目のようなところに伸びる細長い平地を走る街道のロタリンギア側の入り口にあり、この街道はメティスとドームヒューゲルをつなぐ大街道の一部である。
街道を抜けた先にはレーヌス川沿いの平野が広がり、すぐ対岸にはマンネンハイムがある。
通常、この街道はマンネンハイムではなく、レーヌス川の左岸を北上してマゴンティアに至る。マゴンティアはレーヌス川とモエニス川が合流する場所の左岸に位置しており、レーヌス川左岸・レーヌス川右岸かつモエニス川南岸・レーヌス右岸かつモエニス川北岸の三方向に川を渡る大きな桟橋が整備されているからだ。
サラブルッカ街道を出てすぐにレーヌス川を渡河して右岸のマンネンハイムに入ってしまうと、ドームヒューゲル市に入るには北上してもう一度モエニス川を渡り、モエニス川北岸の市街地に入らなければならなくなるため、渡河を一度で済ませるべく、サラブルッカ街道は山を抜けてからはマゴンティアに続くのだ。
そのため、マゴンティアに集約された軍団はこの街道を伝って渡河することなくメティスに進軍できる。
マンネンハイムの軍団は、マンネンハイムでレーヌス川を渡って左岸に移り、陸路で国境を越えて、ウォサゴ山脈の最も簡易な峠であるザブレナ峠に進軍。ザブレナ峠を越えれば、広大な平野をまっすぐメティスに至れる。
ハイルブロンにあたるヘリブルンの軍団に関しては、ネカル平野を西にまっすぐ進んでドゥアラッハに至ると、南に進んでストラーズブルスの対岸に移動。そこからレーヌス川を渡河して、左岸のストラーズブルス市を川から攻める。