chapter. 11−4
「サラブルッカ街道はブリタニア軍の陸戦に長けた5000人が配置されることになってるけど、数ではゲルマニアが上回るだろうな。アーサーが最も信頼する騎士として派遣する、なんて言ってたくらいだし、数の差はそこまで問題じゃなさそうだけど…」
「地の利でもゲルマニアが優位だ。パーシヴァル卿という人物の手腕に期待だね」
コンスタンティノスの言う通り、任せた以上は信じるほかないだろう。パーシヴァルという人物がサラブルッカ街道を担当することになっているが、実はラウルはパーシヴァルとは話したことがない。前回の国賓訪問の際、パーシヴァルは自身の管轄するエルヴェド伯領での仕事があってキャメロットには来ていなかったのだ。
とはいえ、アーサーが最も信頼していると言うほどである。相当な手練れだろう。
「そうだな。問題はそっちより、ザブレナ峠か。コンスタンティノスはストラーズブルス市の防衛中、現地に行くことができなくなる。一応、ケイローンが一番評価してる指揮官を当ててるし、ブリタニアからもトリスタン卿が来てくれることになってるから、持ちこたえるには十分な状況だとは思う」
「私も同意だ。私は敵軍がストラーズブルス市で渡河する前に峠を見ておくつもりだが、峠道は防御側に有利な地形だ。トリスタン卿は風魔法を使った弓の名手とも聞く。とはいえ、峠と言っても麓の街との高低差は200メートル程度の低山だ、配置を吟味せねばね」
「…ロビン、ザブレナ峠に入ってもらっていいか。もちろん、正規軍と合流する必要はない。コンスタンティノスと相談して敵軍を嵌めに嵌めてくれ」
「まーた荷が重いことをさらっと言いますねぇ…ま、いいですよ。そのための俺ですから?友軍が引っかからないよう、下ロタリンギア公とブリタニアの騎士には注意してもらわないといけませんがね」
罠や情報戦によって峠を攻めるゲルマニア軍を混乱させることで、ストラーズブルス市の防衛が完了したところでロタリンギア軍を転回し挟撃することもできるようになる。ザブレナ峠は時間稼ぎができればいいのである。ならば、ロビンが極めて有効だ。
「よし…海から投入される戦力はフリジアとブリタニアの連合軍をベディヴィエールが指揮してくれる。レーヌス川も、ブリタニアと新ラバルム帝国がメインになって戦ってくれる予定だ。こっちは下手に口出す方が迷惑だからな、基本的には任せておく。俺はルキウスと新ラバルム帝国軍2000の転移を行う予定だ」
「海での戦いになるのでしょうか?」
モレーの質問には、ラウルは首を横に振る。河川ならまだしも、海上での激しい戦闘というのは、この時代の環境ではまずない。
海戦自体は存在したが、この時代のガレー船でできることは直接船を衝突させるか、乗り込んで白兵戦をするかであり、相手の艦隊が視界に入るギリギリまで沿岸に係留させ待機するのが基本だ。
「ゲルマニア軍は、船を輸送用にしか使わない。ロタリンギアの北部、フリジアの沿岸はそもそも接岸できない干潟だ。敵はハラレム市から南の沿岸にやってきて上陸し、あるいはレーヌス川河口から遡上して陸路の軍と挟撃するつもりだろ」
「なるほど…ハラレム、デルヴェン、トゥレドリス、リートネッセ、ベルギス、ノーテンの海上要塞都市でこれを迎撃するのですね」
「あぁ。河口域も、都市として干拓した場所以外は同じくドロドロの湿地帯。あいつらの喫水線の深い船じゃ座礁するし、進軍なんてとてもできない。一番地盤が固いハラレムとノーテンは大規模な要塞になってるしな」
リートネッセ、ノーテンは現代オランダではレーネスセとテルネーゼンにあたる港町である。
ノーテンはベルギスとともにアンドウェルピアを防衛するスヘルト川河口の要塞であり、リートネッセはスヘルト川河口とモース川・レーヌス川河口の間に半島のようになった場所の先端に位置する要塞だ。
ハラレム、デルヴェン、トゥレドリスがレーヌス川とモース川の河口を防衛する拠点であるのに対して、リートネッセは河口域全体を防衛する最前線となる。
「ガウェインは小イスラ川に沿ってやってくる軍からストフェーネを防衛。ランスロットはルピア川からやってくるゲルマニア軍をビールタナで迎撃。アーサーはエスネーデでの迎撃をしてルキウスは自軍とともにバルジ陣形で突っ込んでルーラ川の部隊を壊滅させる」
「直接交戦するのは1万9000ほど。残る8000は戦線の近郊に分散させる。これにより、レーヌスラント諸侯を牽制する」
コンスタンティノスが確認した通り、レーヌス川に向かってくるゲルマニア軍がロタリンギアの抵抗勢力であるレーヌスラント諸侯と合流しないよう、いつでもレーヌスラント諸侯を攻撃できるように8000人を分散させることにしている。
レーヌスラント諸侯も、負ける争いでゲルマニア軍と合流してしまえば、戦後間違いなく所領を没収されることになるのを恐れて、最初は様子見となるだろう。
「コロニア伯たちは勝てる戦いにしか参戦しない。俺たちが勝つと分からせてやらないとな」
「彼らも愚かなものだ。ラウルとともに協調した方がよっぽど経済的にも豊かになるだろうに」
なんであれ、コロニア伯たちが形式的にでもロタリンギア側についていればあとはどうでもいい。ラウルをどう思っていても良かった。
本当は、ゲルマニア軍にも死者をあまり出したくない。だが、そんなことはさすがに言えない局面だ。結局のところ、ラウルの生きていた時代の価値観は、数多の戦争とその犠牲の上に成り立っているのだから。