chapter. 11−10
ランスロットが構えるビールタナにてレーヌス川に合流するルピア川と並行して南を流れ、レーヌス川に合流するルーラ川。
そのルーラ川におけるロタリンギアとゲルマニアの国境から西に僅か2キロのところにある国境都市がエスネーデだ。
エスネーデより東に1.5キロ、ほぼ国境線の目の前という場所に本陣を敷いているアーサーは、前方、東に位置する
コフブオークハイムという小さな町からやってきているゲルマニア軍を見据えていた。エスネーデから東北東に10キロ程度離れた場所にあるコフブオークハイムは、ルーラ川を船で運んだ軍用貨物を引き上げつつ、
エムスファリア公国の首都
アフュニゲルネフォルトからやってきた大軍勢に供給する本拠地となっている。
今回、この戦場にいるゲルマニア軍はエムスファリア公国と
ヘッシア公国という、ロタリンギアと国境を接する2つの公国から派遣された軍で構成されている。
エムスファリア公国はゲルマニア北西部、ロタリンギア国境からノルド海まで広がる平野を占める場所であり、多くの人口を抱える国だ。一方、ヘッシア公国はその南でロタリンギアと国境を接しており、国境地帯はレーヌス山塊の丘陵で覆われ陸路移動はできない。
そのため、ヘッシア軍とエムスファリア軍は、コフブオークハイムから東に12キロほど離れた
トルトマンニというルーラ川沿いの大都市で合流し、コフブオークハイムで貨物を引き上げてから、エスネーデに向けて進軍を開始している。
その数は5000人ほどとされているが、エムスファリアの魔法軍は極めて練度が高く、この戦場にまとめて投下されることになっており、倍以上の1万1000人を動員して待ち構えるこちらが不利になると予想されていた。
平野の先に見えている軍の陣形は予想通りだが、切り込むのは難しそうだ。
するとそこに、聞き慣れた声で報告が入ってくる。
「ゲルマニア軍は横陣でコフブオークハイムを出発、国境線から1キロ地点まで到達」
「……何をしているんだいラウル」
「伝令兵から預かっておいた。陣形構築でバタバタしてたしな。あと、一回やってみたくて」
振り返ると、無骨なテントが点在する陣地に華やかな姿があった。軽甲冑と深紅のマントに包まれたラウルは、アーサーの隣にやってくる。少し離れた場所にカストロが控えていた。
どうやら各戦線を回っているようだ。
すでに兵士たちは迎撃態勢に入っているため、ラウルは邪魔をしないよう、兵士たちを騒がせずに直接アーサーの傍にやってきたのだろう。
隣に立ったラウルを見下ろして、肩を抱こうとしたが、カストロから鋭い睨みが飛んできたためやめておく。それに、互いに甲冑ではぶつかってしまうだけだ。
「…陣形構築はガレス卿がやってくれている。すぐに整うよ」
「円卓の騎士の半分くらいが出てくれてるよな。本当に助かった」
ブリタニアは人口420万人とロタリンギアよりやや多いくらいだが、今回の戦役では、ロタリンギア軍4万3000に対してブリタニア軍は1万9000と、陸路でつながっているわけでもないブリタニア王国からの派遣としては相当な数に上っている。少なくとも、このロタリンギア国境方面作戦ではロタリンギアの次に多い数の動員だ。
「むしろ、ロタリンギアのためならばと勇んで出ようとする者たちばかりで大変だったよ。アグラヴェイン卿が調停してくれなければ、誰が出陣するか決めるための戦争になるところだった」
「なんだそれ…まぁ、それにしてもアグラヴェインもよく、ブリタニアの治安維持に必要なギリギリの水準まで兵を減らしてでも外国に出兵させたな」
「彼なりに、ロタリンギアに対する恩を返しているんだろう。彼の統治するローディアン伯領も、1272年の北ブリタニア大飢饉で甚大な被害を受けていた」
今でも思い出す。1268年6月、ブリタニア王に即位したアーサーは、なんとかガリア戦争を破滅的な敗北で負えないよう、円卓の騎士たちの力を借りて戦い続けた。彼らの奮闘によってガリアでは連戦連勝を飾っていたものの、足元の国内では、ノルディア王国による大規模なバイキング攻撃によってブリタニア沿岸部は壊滅状態にさせられていた。
さらに同じ1268年の冬はノルド海が大荒れとなり、冬季嵐によって同じ沿岸部が洪水に見舞われた。バイキングと洪水によってノルド海沿岸部は壊滅し、伝染病が発生していた。