chapter. 11−12


いったい、ラウルの頭の中がどうなっているのか、アーサーには見当もつかない。幼少期から始めた改革はほとんどが実を結び、大国の緩衝国からウェスティアの盟主にまでロタリンギアを復活させた。その一方で、王でありながら名前も知らない誰か一人に思いを馳せる優しさを持ち、それを具体的に救うための算段を王として実現する。

しかしなんであれ、ラウルは優しい、優しいただの人だ、とアーサーは思う。いつだってラウルは誰に対しても等身大で接する。それだけ相手を深く想って接するからだ。同じ人間であろうとするからこそ、身分など関係なく、その痛みや苦しみに共感し人を想うことができるのだ。


「…とても個人的なことを言うとね。僕は、この先どれほど生きることになるのか分からない。知っての通り、エクスカリバーを持つ限り王は不老であり、肉体の衰えによる死が存在しない。しかしエクスカリバーは王の王としての素質を常に見極め、これ以上は王位にいられないと判断した王にはその効力を失う。聖剣が王権の期間を選ぶんだ」

「そうだったのか。てか、そんなこと俺に言っていいのか」

「知られて困ることではないよ。そして、僕もまた、聖剣がもはやブリタニアに僕は不要だと判断するまで、いったい何十年、あるいは何百年、在位するのか分からない。長寿の王は、周りの人間が死ぬにつれて精神を保てなくなり、聖剣が不適合と判断するまで精神を衰えさせることで玉座を降りる」

「……怖いだろ、それ」


ラウルの言葉にアーサーは苦笑するにとどめた。当然だ、怖いに決まっている。自分がいつ死ぬか分からないのは誰もが同じだが、ブリタニアの王はそれが突然であり、そしてずっと先だ。
歴代の王の中で最も多い終わり際は、病や怪我による肉体的な死であり、通常の死去である。父ウーサーも戦争での怪我によって死に至った。
しかし中には、100年以上に渡って王位にいた者もおり、そうした長命の王は周囲の人間が次々と先に死んでいく中で心を病んでしまったという。ウーサーの先代の王は長命の王だったがために、子や孫がおらず跡継ぎがなく、それによって国が混乱してブリタニアは分裂してしまった。聖剣は王朝の血筋を問わず、王として適正さえあれば誰でも王になれるのだ。それが、ブリタニアに伝わる世界最古の魔法であり、一種の呪いなのだと、マーリンは語っていた。


「…そんな王としてのこの先の人生を、僕は、君に隣にいて欲しいと思ってしまった」

「………え、」


間を置いて、ラウルはバッとこちらを見上げた。カストロの眼光は鋭くなっているだろうが、きっと彼はアーサーの感情を理解しているため、知らぬは本人のみといったところだ。


「共同統治でも、同君連合でも、あるいは単なる結婚でもいい。君と共にいられるならなんでも良かった。けれど、それはいずれも、君がロタリンギア王であり僕がブリタニア王である以上、不可能だ。そうだろう?僕も君も、途中で投げ出せないものがある」


王と王が結婚し、その双方が王位を維持したケースはある。男性同士でも霊薬で子を産めるからだ。むしろ、王家の血筋をよくするためにそうしたという話も聞く。
しかしそれでは意味がない。アーサーはラウルが隣にいる未来を望み、それは片方が王位を退くことを意味していた。


「…そうだな。俺は王位に特に固執することはないけど、きっと、この国に俺ができるすべてをやってからじゃないと、自分から辞めることはないと思う。それは、もう途方もなく未来の話だ」

「きっとそうだろうね。だから、僕のこの気持ちは伝えるだけだ。成就させるべき願いじゃない。我々は王だ。個人の願いは制約される代わりに、すべての個人の上に立つ者だ」


それが王の責務だ。ラウルはこの点を強く意識しているからこそ、ここまでロタリンギアを守り抜いてきた。


「でも、アーサーにそう思ってもらえる自分のことは…うん、誇りに思うよ。それは俺の、王としてはではなく個人としての感情だ」

「ラウル…」


ラウルは動揺するでもなく、落ち着いてアーサーの感情を受け止めてくれた。お互い、王であるという自覚を強くする場面でのことだったからだろう。平常時であればラウルは顔を赤くして慌てふためいていただろうし、それも見てみたかったのは事実だが、覚悟を決めてアーサーのことまで受け入れてくれたラウルの意志の強い表情に、今言って良かったと心から思えた。


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