chapter. 11−13


エスネーデから北東に5キロ、小高い丘がいくつか点在する森の合間にあるプイラ((ゲルゼンキルヒェン))という集落に、新ラバルム帝国軍2000人と皇帝ルキウスが構えていた。勝手にコリス・インペラトリスと名付けた小さな丘の頂上に大きな陣を敷いている。意味は当然、「皇帝の丘」だ。

頂上から見渡す広大な平野は緑豊かで、鬱蒼とした森林の合間に街道が大小様々通っており、ところどころに丘や小さな集落が見えている。アンティオキアの地と比べれば、やはり湿潤で緑豊かな土地だと思う。

そう考えながら平野の先にゲルマニアの軍勢を見据えていると、背後の気配が揺らいだ。魔法だと瞬時に判断して警戒したが、振り返る前に、その見知った気配に警戒を解いた。
いや、無意識に警戒を解いていた。随分と骨抜きにされたものだ、と内心で苦々しく感じながらも、不思議と悪くは思わなかった。


「まさか王自らお出ましとはなァ」

「ここにお前たちを転移させたときより、なんかしっかり陣地敷いてるな。定住するなよ」

「定住するならお前がラティウムに来ることだな」

「じゃあお前はレッツェに来るか?」

「それは本末転倒だろうが」


分かっていてからかったラウルにため息交じりに答える。だが、こうやってルキウスに軽口を叩くような人間は東ラバルム帝国にはいなかったため、毎度新鮮に感じてしまう。


「それにしても…ルキウスが新ラバルム帝国兵を連れて、アーサーが迎撃するゲルマニア軍の側面と背面から切り込むって聞いたときは正気かとさすがに思った」

「お前に言われるとはな。だがまァ、その程度の奇襲ならエトルリア王国を打倒するときによくやったものだ。彼我の戦力に差がある状況などいくらでもあった」

「やっぱ歴戦の皇帝は言うことが違うな」


ラウルの言葉は軽いあっけらかんとしたものだったが、だからこそ、ルキウスは心地よく感じる。自然とこの王は、ラバルムの血筋としてルキウスを扱う。先ほどの軽口だってそうだ。
誰に対してもこのような等身大の接し方をする王ではあるが、ルキウスに対するものは、王としてというより同じラバルムの血を担う者としての意思に立脚しているように感じる。


「…この戦争、同盟国が勝利した暁にはやはりお前を俺のものにするというのはどうだ?」

「ガリアとゲルマニアとの国境開放が講和条件って話で着地しただろうが。つか、お前が皇帝やめて俺のところに嫁ぐ方が合理的だろ」

「……なるほど?」


呆れたようにラウルに言われた代案に、ルキウスはつい納得してしまった。いや、もちろんルキウスは帝位を降りることなどありえない。この肩に背負うラバルムの名を下ろすわけにはいかないからだ。だが、ラウルの言葉は考えになかった。


「その考え方はなかったな」

「クソ、余計なこと言った」

「フハハハ、俺がお前のものになるというのは癪に障るが、現状最も合理的なのは確かであろうな」

「いちいち腹立つな」


ジト目で見つつ、ラウルはルキウスの左隣にやってくると、平野の先で交戦が始まった戦場を見つめた。
ゲルマニア軍が横に並ぶ横陣を組んでルーラ川右岸の平野を進み、アーサー率いる大規模な軍勢がそれを迎撃する。

そこに、ひときわ大きな爆発が起こった。敵方の火炎魔法だろう。それを皮切りに、今度はまばゆい光線が平野を走った。ロタリンギア側から発せられたもので、一直線に畑からゲルマニア軍の一角を飲み込み、背後の支援部隊まで焼き尽くす。


「…あれ、エクスカリバーか…?なんつー火力…」

「あの一撃で100は死んだだろう」

「っ、」


息を飲んだラウルに、ルキウスはそういうところはまだまだだと思う。戦争を避けるための努力をしてきて、結果的に戦争にはなったものの、何もしていなければこの戦争はより大規模にロタリンギアを蹂躙するものとなっていただろう。
確かにこの戦争は敵味方合わせて22万が動員される大きな戦争だが、それはロタリンギア方面とゲルマニア東部方面と二つ戦端があるからで、東部方面は同盟によるものだ。つまり、同盟構築などのラウルの政策がなければ、もっと多くの軍がロタリンギアだけに投下されていたし、ブリタニアや新ラバルム帝国の援軍もなかった。

だから、今こうしてたった100人が死んだくらいで息を飲んで顔色を悪くするなど、あまりにも甘っちょろいと言えば甘っちょろい。


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