chapter. 2−5
ロビンがラウルと初めて出会ったのは17歳のときだった。
まだラウルは12歳のロタリンギア王子だったが、すでにそのころから貫禄があり、惰弱王と呼ばれた父王ルータール8世ですら気味悪がっていたような天才だったと聞いている。
ラウルと出会うまで、ロビンはガリア北西部、
ブルトン公国に暮らす孤児だった。
当時ブルトンは対岸の島国ブリタニア王国の海外領土であり、ガリアから400年以上に渡り占領していた地域だった。
すでに多くのブリタニア人がガリア人を差し置いて都市を形成しており、そこでロビンも暮らしていた。
しかしロビンに両親はいない。
魔法が使えたことから、おそらくはブリタニア貴族の庶子であり、ブルトンで捨てられたのだろうと村人たちは言っていた。
正直どうでもよかったロビンは、とにもかくにも食い扶持が必要だった。
肥沃な土地が広がるガリアだが、ブルトン公国は貧しい土地で、ガリアは農作物の輸出を禁じていたこともあって、もっと貧しいブリタニアからの支援を受けられるわけもないブルトン公国の農村は困窮していた。
数年前までは、ブルトン公国の南には同じくブリタニアの領土だった
アキタニア公国というものがあったが、ガリア王国とブリタニア王国の間で100年近く続くガリア戦争において、ガリア軍に奪い返されてしまった。
アキタニアは丸ごとガリアに占領され、ブリタニアはもはやこのブルトン半島のみを大陸に所有している。
アキタニアからの食糧供給がなくなってしまったことや、アキタニアから大勢のブリタニア人が避難してきたこともあって、それはもう悲惨な状況になっていたのである。
ロビンは魔法が使えたため、軍の遊撃部隊に入り、裏工作や罠によるガリア軍への攻撃を行った。
ロビンの魔法は、自分の姿を「ほかのだれか」に似せることであり、「だれでもない」者にすれば姿を消すことも可能である。
これによって、ガリア兵に化けて裏をかいたり、姿を隠して罠を設置したりとブルトン公国を包囲する軍に打撃を与え、たった一人で包囲軍の6割を瓦解させた。
しかし、その軍功をロビンはすべて蹴り、ただ金とパンだけを要求。戦って、殺して、食べて、金を使って、また戦って、というのを繰り返す日々だった。そんなロビンを、騎士道に生きる正規兵は見下していたし、村人たちも不気味がっていた。
それに、魔法は貴族の象徴であり、下女の子であろうと魔法が使えるロビンへのやっかみもあった。
そんなこんなで、同じように社会から省かれた少年とつるむ以外は孤独を貫いたロビンだったが、ついにガリア軍はブルトン公国に侵攻。
当時のガリア王マルテルの猛攻撃によってブリタニア大陸軍は壊滅し、ここに100年にわたるガリア戦争は終結。
ロビンはガリア軍をたった一人で瓦解させた人物として捕縛され、魔法の研究と題した解剖実験の対象として、ガリアの王都
ルテティアに連行されることが決まっていた。
薄暗いテントの中、動物用の背の低い檻に収容されていたロビンは、その日もぼんやりと横になって過ごしていた。明日にもルテティアに移送され、そこで見せしめとして市民の前で処刑されたあと、ルテティア城の研究室で解剖される。
自分らしいみじめな終わり方だと自嘲していた、そのときだった。
「君が噂の『顔のない王』ロビンフッドかな」
「…は、」
まったく前触れも気配もなかった。
突然、檻の前に人影が現れたのだ。普通、このテントに入ってくるときの光が外から漏れてくるし、あるいは甲冑の音もするはず。そもそも、見張りの兵士が入り口にいる。
何が起きているのか分からず、思わず呆けた顔で檻からその人物を見上げた。
年齢は12歳くらい、銀髪に碧眼で、幼いながら意志の強そうな凛とした端正な顔をしている。気品からして、只者ではない。
「…どちら様っすかねぇ、こんな処刑を待つだけの捕虜に会いに来るとは」
「ロタリンギア王国王位継承権第一位、ラウル・ラティウム=トレヴェリスという。次のロタリンギア王だ」
「………は?」