chapter. 11−14


「どうした?ロタリンギアを卑しくも手にしようと進軍してきた蛮軍だ。いくら死のうとロタリンギアの民が守られればこちらの責は果たしている。そも、向こうが仕掛けた争いで向こうが勝手に撃退されて死んだだけのこと。なんの問題がある」

「…新ラバルム皇帝。それ以上は許さんぞ」


背後から鋭利な気配がする。カストロが睨みつけているのだろう。付き人の分際で、思わないでもなかったが、ラウルを守ることに先鋭化した人物がいるのはルキウスとしても安心材料だ。
それに、カストロがわざわざこれ以上何かを言わずとも、ラウルがもう言い返すだろう。


「…そうだな、わざわざ戦争という手段を選んだのはゲルマニアだ。でも、戦争を選んだ奴らはのうのうと後ろにいて、実際に死ぬのは、ただ今を生きて明日を生きていくだけの市民だ。国のために死ぬというのなら、将軍から先に死ぬべきだ」

「フン、兵と将の不均衡など今に始まったことではあるまい。将とて、失敗の責は死で償うこともある」

「……そんなに死を軽く扱って欲しくない、なんてのは、俺のわがままなんだろう。分かっては、いるんだ。でも…」


そこまで言ってから、ラウルはハッとする。どうかしたのかと見ていると、ラウルはちらりとルキウスを見てから、居住まいを正した。


「…悪い、ちょっと動揺した。でも大丈夫だ。変なこと言って悪かったな」

「…?変なこと、とはなんだ。なぜ隠す」


明らかに、ラウルは言葉の続きを躊躇った。それは、相手がルキウスだからだ。なんだかおもしろくなくて、ルキウスはラウルを軽く睨みつけた。ラウルはそんなルキウスの視線そのものには動じていないが、言葉の続きを求められていることには迷いが見られた。


「さんざん失礼なことを言い放っておきながら、今更何を遠慮している」

「あー…や、なんつか、めっちゃ弱気というか、上に立つ者としては甘い考えだから、そういうの嫌がるかと思って」


どうやらラウルは、己の弱く甘い考え方をルキウスに見せるのをためらったらしい。
確かにルキウスは弱い者が嫌いだ。西ラバルム皇帝の血筋の者が弱腰ではないか、ティキヌム宮殿で確かめたのもそれによる。
だが、ラウルは弱い者などではない。むしろ、その精神は頑強だ。その胆力がなければ、このような大規模な大同盟を構築することも、実際にその軍を動かすこともあり得なかった。


「俺が疎ましく思うのは弱いヤツであり、弱い言葉ではない。それに、お前が弱気で甘いと言う考えは、そのような側面はあるだろうが、それもまたお前の強さの原動力となるものだろう」

「…原動力……」

「お前は、一人でも多くの民に笑って生きていて欲しいと願った。そのために国があるべきだと考えた。だから、お前はこの大同盟を構築し、いつか来るはずだったこの日を、最大限備えた状態で迎えている」


弱き者とは力のない者ではない。己の弱さを知らず強さも知らず、ただ成り行きに身を任せる者だ。
ラウルは戦えるわけではないし、人の死にも動揺し敵にすら死んで欲しくないと願っている。だが、それを実現するために必要な力を得て行使し、他人のそれすらも引き出し、この大同盟を築き上げた。


「だから言え。弱音も甘えも。そして、俺に何を求めるのかも」


そのルキウスの言葉に、ようやくラウルは表情を緩めた。


「…ありがとな。俺は、敵にも味方にもなるべく死んで欲しくない。軽率に戦争という手段を選ぶ指導者なんて存在して欲しくない。だからこそ、俺は一人でも死なないように今の状況を構築した。戦争を躊躇う経済的優位性を求めた。ルキウス、頼む。相手を蹴散らして、戦意を喪失させ、敗走させてくれ」

「いいだろう!その傲岸な願い、ラバルムの血に相応しい!この東ラバルム皇帝一族の力、見せてやる!」


確かにラウルの願いは弱気で甘っちょろく、そのうえ無理難題だ。だが、この優しさこそが、ルキウスに一人ではないと、この世界には隣にいてくれる人が存在するのだと教えてくれた。
その優しさもまた、ルキウスがラウルを欲しいと思う理由なのだろう。


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