chapter. 11−16
ストラーズブルス中州にはレーヌス要塞というロタリンギアの要塞があり、これも星形要塞となっている。
いかにラウルがこの地の危険性を考えていたかが分かる。
ちなみに、レーヌス川の中州はすべてロタリンギア領となるよう、西ラバルム帝国から3王国が分裂ときに取り決められた。ゲルマニアが文句を言わなかったのは、中州を領土とする代わりに、その管理もロタリンギア領が引き受けることになったからだ。
そのままにしていれば、レーヌス川が運ぶ大量の土砂が堆積し、中州が肥大化したり川底が高くなったりする。そうなれば船の航行ができなくなってしまい、川が溢れやすくなる。そこで、定期的に中州周辺に堆積する土砂を除去し、治水工事を行うことがロタリンギアの義務として課せられた。
ラウルはその管理義務を応用して、中州を使った防衛陣地の形成を図ったのだ。
「斥候の報告では、キールには大量の小舟が集められているそうだ。一気呵成に船で中州を渡りながらこちらにやってくる予定なのだろう」
「中州に配置された部隊の撤退用船舶は?」
「人数分確保しているよ。中州からの撤退方法も各部隊確認済みだ。北の
ルプレショー村に川を下って撤退してから、ストラーズブルス市街地に戻ってくる手筈になっている」
「…ありがとな、ここまで俺の意図を汲んでくれて」
すると、ラウルはそう礼を言った。兵士たちが生きて帰ってこられるように事前に用意しておいたコンスタンティノスだったが、それはもちろん、この王がそう望むと理解していたからだ。
それを理解して、ラウルはコンスタンティノスに礼を述べた。
「君は私の命を、そして皇帝という矜持を、すべて守ってくれてきた。その肩に途方もない重荷を背負いながら、それでも君は、ロタリンギアの王であるのと同時に誰か一人の王でもあり続けた。そんな我が王のために戦うのだから、その意を汲むのは当然だろう?」
「…、コンスタンティノスがいなかったら、もっと俺はこの戦争を恐れてた。戦いになるならとゲルマニアに妥協したかもしれない。でも、あんたがいるから、俺はこの最も苛烈な戦いになる場所を任せられると信じられた。俺の体を守るのがカストロやポルクスなら、俺の場所を守ってくれるのはコンスタンティノスだ」
「…あぁ、その通りだとも。ミクラガルズは守り切れなかったが…この街は守ってみせる。ラティウム=ミクラガルズの名にかけて」
そうコンスタンティノスが言った途端に、進軍を知らせるラッパの音が聞こえてきた。キールから一斉に敵兵が渡河を開始したのだろう。
中州の部隊が時間稼ぎをしている間に、コンスタンティノスは魔力を拡散させ、その発動に集中し、そしてこの都市全体を覆う結界を発動する予定だ。
そこに、辺り一帯の空気をビリビリと振るわせる爆発音が轟いた。レーヌス要塞が爆炎に包まれている。敵の火炎魔法によって、要塞が一撃で破壊されたのだ。これでストラーズブルス中州は無力化されたに等しい。あの規模の爆発はそうそう起こせないため、初撃に火力を集中させたのだろう。
レーヌス要塞に配置していた部隊は500名ほど。ほぼ全員が犠牲になったはずだ。コンスタンティノスは相手の魔法部隊の圧倒的な力に眉を寄せる。
「…っ、」
すると、隣でラウルが拳を握りしめているのが見えた。あの要塞で命を落とした者たちのことを考えているのだろう。
コンスタンティノスは一度呼吸を深くする。
「…大丈夫だ、あとは任せてくれ」
「……あぁ、頼んだ」
声を震わせたラウルに、この優しい少年を、これ以上悲しませないために戦うのだと、コンスタンティノスは決意を新たに魔力の展開を始めた。