chapter. 11−21
「不躾な訪問で悪い」
さっとアストルフォとローランは膝をつく。シャルルは立ち上がり、こんな夜に他国の後宮を訪れたラウルに懸念が湧き上がる。何かあったのだろう。そうでなければ、さすがのラウルもこんなことはしない。
シャルルが王様モードでないときはフランクな姿で過ごしていることを知ってのことだ、「今」会うべきだと思ったラウルの、その理由を知らなければならない。
「全然大丈夫だぜ!付き人いるよな、貴賓室で待つか?」
「や、どこでもいい。ここでいいならここに待機させる」
「分かった。じゃあ付き人はここにいてくれ。アストルフォとローランは下がっていいぞ、ありがとな。俺はラウルと第一客室に入るから、人避けだけ頼む」
「はーい、了解っと!」
アストルフォはあっけらかんとそう言うと、すぐに部屋を出て行った。ロタリンギア王の前では礼節ある騎士として振る舞っていたが、今はプライベートだと理解して気を楽にしている。
ローランは一礼してから部屋を出て行ったが、きっとアストルフォとともにキャッキャとこの逢瀬に沸いているだろう。
実際には、そんな明るい時間にはならなさそうだ、と、張り詰めたラウルの表情にシャルルは予想していた。
そうして後宮第一客室に入ると、シャルルは豪勢なソファーに座って隣を促した。ここは後宮に招くような客人、つまり血縁のある者だけが利用する場所だが、シャルルの血縁者はロタリンギアの地方都市領主のため縁がない。
ラウルはシャルルの左隣に腰掛ける。沈んだ表情は、ガリアから参戦している2公国を初日で撃退して見せた国の王とは思えなかった。
「…それで、どうした?戦いは順調だって聞いてるけど」
「ノーテンで550、カマラクスで800、マセリアエで1100、バッルムで750、合計3200。こちらで把握してる、ガリア側の死者だ」
「うーん…大体3割いかないくらいってとこか。思ったより犠牲者が出てないな。それがどうかしたか?」
「…、何を、言えばいいのか分からない、けど…いや、本当は、謝ろうと思ってきたんだ。俺はロタリンギアを守るために、大戦争を回避するための小規模な戦争を招いた。それがなければ、命を落とさなかったガリア人3200名だ。だから…」
どうやらラウルは、自分のせいでガリアに3000人以上の死者が出たと考え、謝罪のために訪れたらしい。だが今、その謝罪が出てきたわけではなかった。
「謝ろうと思ったけど、でもそうするべきなのか、迷った?」
「…あぁ。なんであれガリア兵は、死ぬことを前提にする職業を自ら選んだし、その覚悟で従軍した。遅かれ早かれ大戦争で死んでいた命だったかもしれない。何より、俺の立場で言うことじゃ、ないのかもなって…自分が楽になりたいだけなのかもしれないって…」
「ラウル…」
「……悪い、カッコ悪いところ見せた。でも、シャルルしかいなかった。アーサーもルキウスも、他の同盟国の王たちも、俺のために、ロタリンギアのために戦ってくれてるし、自国に死者も出てる。それなのに敵の死に動揺するところなんて、見せるわけにいかない。もちろん、ロタリンギア国内の人たちにもだ。ロタリンギアは侵攻されている側なんだから」
「それで、この戦争に対して中立の立場になってる俺のところに来てくれたんだな」
「…、でも、情けないことしてる、俺」
ラウルはどこまでも、優しい王だ。シャルルは隣で視線を落として拳を握り締める愛しい人の姿に、つい、抱きしめる。
腕の中に抱き込んだ細い体は、とてもロタリンギアと同盟国を背負うような立場には思えなかったが、ラウルでなければ、もっとひどい戦争が起きていた。