chapter. 11−22
それでも、敵味方問わず、自分の判断がなければ起きなかったこの戦争で死者が出ていることに、それが仕方ないことだと理解していても、傷ついている。犠牲になり負傷した人々の痛みや苦しみ、帰らない人を悼む家族の慟哭に、思いを馳せている。
そんな姿は、ロタリンギアのために戦う人々には当然見せられないだろう。だから、ラウルはシャルルを頼った。
シャルルに抱き込まれたラウルは、戸惑いつつも、そっとシャルルの胸元に顔を埋めて縋るように抱き着く。
「…俺は、こうやってラウルが頼ってくれたの、すげー嬉しいぜ」
「そ、うか…?」
「うん。ラウルは言ってたよな、一人でも多くの人に笑って、楽しく生きて欲しい。誰もが無条件に命を尊重される国であって欲しいって。そのためにラウルはロタリンギアを守る政策を行って、その結果、こうやって実際に戦いが起きてもロタリンギアは敵を跳ね返してる。でもラウルは…本当は、敵味方関係なく、すべての人が、無条件に生きられる世界であって欲しかったんだよな」
ラウルは息を飲む。そう、ラウルはロタリンギア王として生まれて生きてきたため、基本的にはロタリンギアを守るということがその至上命題となっている。
しかしラウルは、時としてそれを超えて他国の人々のために身を粉にすることもある。ブリタニア同盟の際に行った莫大な援助が典型的な例だ。
そして今も、この戦争がなければ死ぬことはなかった敵兵に胸を痛めている。多くの場合、兵士というのは兵士以外で生活ができないから軍に所属している。特に寒村が多いゲルマニアはそうだ。それを知っていることもあってだろう。
「ラウルは王で、しかも人よりずっと優れた王だから、ロタリンギアを守るっていう最優先事項と、国籍を問わず誰もが平穏に暮らせる世界ってのが両立できないことを理解してる。とりわけ他国のことは自分じゃどうにもならないことや、そもそもラウルの価値観が王や公の誰にでも受け入れられるようなモンじゃないってことも」
ラウルは感傷的になっているだろうが、それは理性に基づくものだ。聡明な王であるラウルは、自分の領分ではないことや価値観の相違はどうしようもなく、だからこそこの戦争も犠牲者も避けがたいものだったと理解しているのだ。
「頭では分かってるからこそ、それでも心が痛むとどうしようもねーよなぁ。でも、俺はそういうラウルの優しさと誠実さが好きだ。なんつか、めっちゃ綺麗なものに触れてる気がする」
「…なんだ、それ」
少し呆れたように笑ったラウルに、相手を想う心が滲むラウルの笑顔が好きだなぁと思ってしまう。結局そればかりだ。
シャルルはラウルを腕に抱いたままソファーにごろりと横になる。引っ張られたラウルは、シャルルの上に乗っかるようにして上体を倒す形だ。
「いきなりなんだよ」と文句は言っているが、それでもシャルルの胸板に頭を乗せてすり寄ってくれるのが途方もなく可愛くて、シャルルはにやけそうになるのを必死でこらえた。
「…俺は、ラウルの全部が好きだ。だから、俺は決してあんたを傷つけることはしない。ラウルからガリアに軍事侵攻するようなことがありゃ話は別だが、そんなことはありえねーって心から信じられるからな。遠慮なく、こうやって俺のこと頼ってくれよ」
「……迷惑じゃ、ないのか」
「まさか!ハチャメチャに甘やかしてやりてーの」
ラウルは顔を上げないが、恐らく恥ずかしくてシャルルの顔を見られないだけだろう。その証拠に、耳が真っ赤になっている。
たとえ、ラウルがシャルルに同じ気持ちを返せなくてもいい。ただ、こうやってシャルルを頼って、その肩に乗せるあまりに重いものと、その心に抱くあまりに深い想いを、気兼ねなく発露させられる場として欲しい。
シャルルはそう願い、ラウルにとってそういう人物でいようと改めて思った。