chapter. 11−23
ゲルマニア王国パンノニア公領首都
アクィンクム。
つい1年前まで、パンノニア王国という独立国家の王都だった場所であり、現在はゲルマニアのパンノニア公国の首都として、イステル川流域の主要関税都市となっている。
ロタリンギア戦争が勃発して3日、マンドリカルドはアヴァール王国と高モエシア王国、イリュリア王国の連合軍1万7000を率いてゲルマニアに侵入し、ダキア公国西部の都市
ウィミナキウムを落としたあと、このアクィンクムも陥落させた。
イステル川に沿って進軍してきたアヴァール連合軍は、昨日一日をかけてウィミナキウムの攻城戦を行い、防衛力を無力化。
昨年のゲルマニア併合に際しては、ダキア王自らがゲルマニア配下のダキア公となることで戦争なくゲルマニア領に下ったため、ダキアの最後の交戦経験は151年前の1126年、カルプ戦争で東ラバルム帝国から独立を果たしたとき以来となる。
そんな相手はアヴァールの敵ではなく、瞬く間にダキア西部を制圧したマンドリカルドは、そのままパンノニア公領に侵入して首都アクィンクムに攻め込むと、これも1日で陥落させた。
アクィンクムは昨年のジークフリート率いるゲルマニア軍の侵攻で城壁を破壊されており、その防衛能力は著しく低下したままだった。パンノニアの政治の中心は事実上、パンノニア女公エリザベートが座す
アルデアル伯領の首都
カエドニアにあるため、アクィンクムの復興は遅々として進んでいない。
一方、ポルスカ=ルテニア連合王国の4万の軍も、ボイオハイム公国の首都カスルギスを含む主要都市すべてを制圧し、さらにオストマルク公国の首都ヴィエンナとイステル川の都市プレスラヴァブルクも占領。
うち3000をイステル川下流方面に派遣して、アクィンクムのアヴァール軍と合流させた。
これにより、連合王国とアヴァール連合軍はゲルマニア王国のボイオハイム公国全域と、オストマルク公国、パンノニア公国、ダキア公国のイステル川流域一帯を完全に制圧し、ゲルマニア王国東部領域と本土王権領域とを寸断した。
マンドリカルドは、連合王国軍を率いるポルスカ大公カドックと会談するため、占領地の拠点としているアクィンクムのイステル川西岸に位置するアクィンクム宮殿に集まった。
瀟洒な宮殿の大広間にて、カドックとマンドリカルドは対面しテーブルにつく。
兵士たちはロタリンギア大同盟による快進撃に沸いており、城下のアクィンクム市内でも、大した犠牲なく無血開城に近い形で都市を解放したこともあり、兵士たちが飲み食いする特需に活気づいていた。
「まさか本当にアクィンクムであんたと合流するとはな」
「本当それっすね…思ったより、ゲルマニア東部の軍事力は王権領域の軍と体系化されてなかったってことっすね」
「士気も低かったしな。僕たちが侵攻した都市のほとんどが抵抗せずに開城した。カスルギスくらいだ、まともに戦闘になったのは」
どうやらカドックの方も、あまり歯ごたえのない戦いだと感じたようだ。とはいえポルスカも長いこと戦争をやっていない、歴戦のアヴァール人とは感覚が違うだろう。
「ロタリンギア方面の戦況は聞いてるっすか?」
「昨日、ラウルから伝令兵が転移してきた。アヴァール軍が速すぎて捕捉できないから代わりに共有頼むって」
「あー…」
アヴァール軍の最大の強みは機動力だ。だてに大陸を右から左に大移動してきたわけではない。
そのスピードが速すぎたために、さすがのラウルも転移魔法を発動するに足る地理捕捉ができなかったようだ。
「ロタリンギア方面も概ね順調だそうだ。初日のうちにカンパニア国境戦線は平定、カンパニア軍は全軍が撤退した。フリジア戦線は二日目の昨日、大半の敵軍を撤退させ、ハラレム周辺での掃討戦に入ってる」
「ロタリンギア王国の西と湾岸はほぼ停戦っすね。問題は東っすか」
「あぁ。僕が昨晩聞いた限りでは、レーヌス川戦線における戦況は一進一退。国境から押し返してゲルマニア領内で戦闘が続いてるらしいけど、次々と投入されるゲルマニア軍に押し切ることもできないらしい。ガウェイン卿が守護したストフェーネは敵軍が包囲を諦めて撤退したそうだ」
つまり、ロタリンギア北東部のレーヌス川戦線では、ストフェーネは勝利したものの、ルピア川とルーラ川に沿って展開している戦場での戦いが依然として続いているらしい。
「アルザティア戦線では、サラブルッカ街道もザブレナ峠もゲルマニア軍が超えることはできてないものの、諦めてもないようだ。ストラーズブルスは、一番外側の第三城壁が破られて綾堡も外側のものは大半を喪失。今は第二城壁とストラーズブルス城塞での防衛戦をやってるところだ」
「やっぱ火力はストラーズブルスっすか。確か、城塞と第二城壁を喪失した時点で、コンスタンティノス公が結界魔法による籠城戦に入るんすよね」
「その予定だな。明日にでもその状態に入るだろうけど…幸い、東部方面はこうして作戦を完遂した。シグルド大公が外交による終結を図っているところだろう」