chapter. 12−1


1277年9月1日、ゲルマニアの公式使節団がレッツェを訪問し、ラウルに対して、停戦に向けて交渉を行うことが持ち掛けられた。
戦争が始まって3日目の昨日までに、ついにレーヌスラント諸侯がゲルマニアにつかず、ロタリンギア軍にも派兵せずのらりくらりと何もしない立場を明らかにしたため、これ以上戦況が改善する見込みがないどころか、ミクラガルズとの貿易が断絶していることで経済的に大打撃を受けていることからも、もはや戦争を続けることにメリットがなくなったことが背景にある。

アーサーやルキウスがゲルマニア軍を瞬く間に駆逐していくその火力を前に、ディウス伯やコロニア伯はゲルマニア側に立つことは得策ではないと判断したらしい。それはこちらの思惑通りだ。

一方、ポルスカ=ルテニア連合王国とアヴァール王国、そして高モエシア王国とイリュリア王国の東部方面軍は、こちらの期待以上の戦果を挙げた。国境侵犯によってゲルマニアを動揺させることが主要目的だったが、ヴィエンナから東のイステル川流域とボイオハイム公国全土を制圧してみせた。
たった3日でここまでやるとは思っていなかったラウルだったが、それだけカドックもマンドリカルドも全力で臨み、そしてゲルマニア人ではない異民族が大多数の東部地域はゲルマニアのために戦う意思を示さなかったということだ。

4日目の現在、戦闘はストラーズブルスとサラブルッカ街道、ルーラ川沿いだけになっており、そこでも散発するだけだ。コンスタンティノスは昨日からストラーズブルス城塞と第二城壁を放棄して、市街地を取り囲む第一城壁に沿って結界を展開しており、籠城戦となっている。
ザブレナ峠はロビンの罠によって大半のゲルマニア軍が無力化され、防衛していたロタリンギア軍の多くがストラーズブルスに転回し、包囲するゲルマニア軍を外側から叩いているところだ。
市内の備蓄を考えればあと数日はこのまま保つが、早く解放してやりたい気持ちが大きい。

そうしてラウルはこれ以上の深追いは避け、ゲルマニアの要望を飲み、講和会議を開催することを宣言。
ゲルマニアからは全権大使として大公シグルドが、ガリアからはアンデシア公とカンパニア公のほか責任を取るためにガリア王シャルルもやってきて、さらにカドック、マンドリカルドも東部方面からロタリンギアまで来ることになっている。

戦場に残っていたアーサーとルキウスや、戦闘を指揮していた円卓の騎士たちとコンスタンティノス、モレー、さらにルシタニア王、バエティア王、高モエシア王、イリュリア王もやってくることになっている。

なんとウェスティアからオスティアまで、10か国の王がやってくるのだ。さすがに場所はメティス宮殿を予定している。
開催日は移動時間を踏まえ9月5日と決まり、戦闘は戦場への伝達時間を含め明日9月2日12時までと定められた。今すぐ停戦としたいが、今の情報伝達速度ではすぐ停戦を宣言してもそれくらいかかる。

ゲルマニアの使節団がレッツェ城を離れたところで、ラウルはどっと疲労を感じて、本部となっている小ホールの椅子にどかりと腰掛けた。


「やっと終わるのか…」

「ここからがむしろ本番だろう」


使用人などもいないのをいいことにだらけるラウルに、カストロが少しおかしそうに声をかける。本番と言われてラウルは首をかしげてしまった。


「…?でも事前に講和内容はシグルドとシャルルと決めてあるし」

「何を言う。ロタリンギアを含む11の国の王が一堂に会するのだ。この規模での国際会議は、古代ラバルム帝国の東西分裂以降921年間の歴史において前例がない。お前はこのロタリンギアを、名実ともにこの世界の盟主として蘇らせたのだ」

「兄様の言う通りです、ラウル様。それに、小国の王たちは講和会議で欲を出してさらなる要求を行うはずです。会議の行方はラウル様の取りまとめにかかっています」

「何より、これだけの王と使節団、その旅団すべてをメティスで迎えるのだ。勝利に酔うメティス市民のことも考えねばな。これは途方もない接遇だぞ」


双子から相次いで言われた事実に、ラウルはひとつ深呼吸をする。やらなければならないことが急速に頭の中に組み立てられていき、それに必要な時間や予算の莫大さに頭が痛くなる。


「……行くぞ二人とも。メティス宮殿に先に入る。レッツェ城とトレヴェリス宮殿、ロヴェン宮殿からも使用人を派遣させてくれ。我が国始まって以来の行事だ」

「心得た」

「承知いたしました!」


立ち上がって勢いよく手配を開始する。かたっぱしから使用人の管理職に声をかけて指示を出していき、私室に向かいながら必要な服飾品も考える。

やはり戦争などするものではない。戦後処理という名の後始末に頭を抱えたくなりながら、ラウルはこの戦いの終止符を打つための戦いに覚悟を決める。
だが、剣を持たない戦いなら、いくらでもやれるというものだ。


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